長さ10メートルの“鉄道向け印刷”から未来の自動改札まで 鉄道技術の進化を探る:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
「鉄道技術展」に出展されたものを見ると、未来を感じさせる最新の技術や、鉄道業界を長年支えてきた技術に触れることができる。展示物から、鉄道の“進化”について考える。
11月27日から29日まで、千葉市の幕張メッセで「鉄道技術展」が開催された。鉄道に関する商品やサービスを提供する企業の商談会であり、趣味的な要素はない。ただし一般公開されており、最新の鉄道技術を知る上で勉強になるイベントだ。その中から、鉄道の“進化”を感じさせる展示物をいくつか紹介する。
安全技術 脱線・逸脱の被害をどう軽減する?
・設置が簡単で強力な車止め装置
車止め装置は、暴走した車両が線路の終端から飛び出さないように、線路の終端に設置する。レールを上下に曲げただけという簡易な方法もあれば、鉄筋コンクリートに油圧式ダンパーを組み合わせるタイプもある。後者は重量のある鉄道車両を受けとめつつ、衝撃を和らげて乗客への被害を軽減する効果を狙う。ただし、据え付けは建設工事並みで、構造は複雑だ。
RAWIE社が展示している「高性能バッファーストップ」は、特注品でありながら工場で生産し、線路に据え付けるタイプ。設置後、レールを締め付ける形で固定する。車両が衝突した場合、スライドすることで衝撃を緩和しつつ、オーバーランを防ぐ。
・ウイングタイプの脱線・逸脱防止ガード
線路の内側にレールを設置して、万が一、列車が脱線した場合に横移動を抑える仕組み。2004年10月、上越新幹線が時速200キロで走行中に中越地震に遭遇して脱線した。しかし、線路を大きく逸脱することなく、高架橋の破損もほとんどなかった。死傷者ゼロだったことも「奇跡」と報じられた。高速走行中の新幹線が激震で脱線しても線路を逸脱しなかった理由は、車輪がレール間の排雪溝に落ちたから。また、台車と車輪がレールを挟む形になったからだ。
この教訓から、JR各社をはじめ鉄道事業者は、従来はカーブ区間に設置されていた脱線防止ガードレールについて、新幹線など高速走行路線の直線部に設置を進めている。ところが、脱線ガードレールは車輪が通るレールに寄り添うように設置されるため、保守作業にとって邪魔な存在だ。そこで、保守作業をしやすい脱線防止ガードが考案された。
大和軌道製造のブースでは、JR東海タイプ、JR西日本タイプの装置が展示されていた。JR東海は蝶番の仕組みで脱線・逸脱防止ガードを展開し、レールとの隙間を空けて、レール突き固め作業をしやすくした。JR西日本はレール間の中央に逸脱防止ガードを固定する。万が一脱線しても、逸脱を食い止めるという考え方だ。
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