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自動車メーカーにとっての安全性と、ボルボ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
自動車メーカーの安全に対するスタンスは、大別して3つあると筆者は思っている。代表的なメーカーでいえば、1つ目がテスラ、2つ目がダイムラーやBMW、そして3つ目が日本の自動車メーカーだ。という中でボルボは少し特殊だと思っている。ご存じの通り、「安全」というキーワードは、ボルボというブランドの価値の中で大きな部分を占める。
データオリエンテッドな安全技術への取り組み
イヴァーソン氏の説明を補足しよう。ボルボは長きにわたって、リアルロードでの実際の事故現場に自社の分析チームを派遣して調査し、それらをデータとして蓄積してきた。つまりこうした長年積み上げられたリアルな事故データのデータベースこそが、彼らの戻るべき原則になっている。
そうしたデータによって、リスクのシナリオを描き、また新技術によって起こる新たなクリティカルな状況を予測しながら、技術開発を行っている。
当たり前のように聞こえるかもしれないが、他社の動向や販売の数値ではなく、ブランドそのものの基礎を築くだけの事故データが膨大に蓄積されており、そこを基準にするからこそ、独自の安全思想が生まれてきていると、イヴァーソン氏は説明しているのだ。
例えば、日本で「ぶつからないブレーキ」を認可させるために、ボルボは自国の監督官庁の役人だけでなく、英国の保険会社のスタッフまでともなって、データを元に国交省を説得した。それがなければスバルのアイサイトも生まれなかった可能性が高い。データオリエンテッドな安全技術のあり方について、ボルボの方法論は非常に参考になるのではないだろうか?
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