「北斗星」の現状に失望と期待 鉄道クラウドファンディング“成功の条件”とは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
「北斗星」の保存を目的としたクラウドファンディングに参加したが、現地を訪れて、車両の傷みが進んだ姿にガッカリした。だが、今後に期待できる事業も動き出した。車両保存はゴールではない。維持補修作業のスタートだ。将来を見据えたプロジェクトでないといけない。
将来を見据えたクラウドファンディングを
価値ある車両を保存したい。そのために応援してほしい。それで賛同者は集まるだろう。しかし、車両保存はゴールではない。永遠に続く維持補修作業のスタートだ。そこを見据えないと、車両は朽ち果て、初志も応援した人々の気持ちも無駄になってしまう。デジタル映像やVRなどの新たな技術があるいま、ハードそのものを残すことにどれだけ意味があるか。後先を考えない車両保存プロジェクトには慎重にならざるを得ない。
車両保存に限らず、廃駅の保存や活用など、鉄道分野のクラウドファンディングは定着しつつある。観光分野に広げると、自治体の計画や構想にはじめからクラウドファンディングを盛り込んでいる事例もある。企業や自治体は資金を集める手段を持っていそうなものだけど、正攻法ではなく他力本願。打出の小槌だと思っているようだ。
クラウドファンディングサイトにもいろいろあるようで、成功の可能性、社会的意義をきちんと審査しているサイトもあれば、何でもあり、当たって砕けろといわんばかりのサイトもある。鉄道分野に限らないけれど、クラウドファンディングは資金を集める以上は「事業」だ。継続性を考慮して実施してほしい。参加者も一時の情に流されず、将来性を考慮して慎重に参加を見極めたい。成功したところでプロダクト側が持て余したり、参加者が後悔したりという悲劇は避けたい。
北海道岩見沢市で保存展示されている711系電車。クラウドファンディングによる車両保存の先駆けともいえる事例だった。写真は設置から3カ月後の15年11月に撮影。当時は美しい姿だった。ネット上では傷みが目立つという紹介も見かける。現役時代の走行風景を残すため、あえて屋根は付けないとも聞く。ボランティア団体による修復が行われているけれども、作業が追い付いていないようだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。 - 水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実
台風19号の影響で北陸新幹線の車両が水没した。専用仕様のため、他の車両が代わりに走ることはできない。なぜJR東日本は新幹線車両を共通化していないのか。一方で、北陸・上越新幹線の車両共通化に向けた取り組みは始まっている。 - 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。 - がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。 - 「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.