「ほら、日本ってめちゃくちゃでしょ」 ゴーン氏の逆襲をナメてはいけない:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
カルロス・ゴーン氏が、会見を開く予定だ。「大丈夫でしょ。悪いのは彼なんだし」「すぐに逮捕して、日本に戻せ」といった声が聞こえてきそうが、大きな声をあげればあげるほど、日本にダメージを及ぼすリスクがあるのだ。どういうことかというと……。
日本のイメージが悪くなる
フジモリ氏は選挙では日本国籍はないとペルー国民に説明していたが実は真っ赤なうそで、「二重国籍」の持ち主だったのである。特別なルールがない限り、主権国家は自国民を守らなくてはいけない。政治的迫害から逃れてきた者だろうが、犯罪者だろうが、よその国に求められるままホイホイと差し出してしまったら、その国の独立性を否定することになるからだ。
とはいえ、こんな理不尽な話でペルー国民は納得しない。ほどなくして、逮捕状を請求したインターポールに国際逮捕手配書を発行してもらった。そこに並ぶ容疑は、24人もの民間人の虐殺を指揮したという殺人の疑いのほか、暴行、文書偽造、誘拐など。ゴーン氏のなんちゃらルートを使った不正送金が霞んで見えるほどの罪状だが、日本政府はこれも軽くスルーした。
理由は、インターポールの手配書は、日本の裁判所が発する逮捕状にあたらないから。要するに、日本でのんびり暮らすフジモリ氏にはなんの効力もないというのである。かくして、ペルーから逃亡した犯罪者・フジモリ氏は自身の意志で日本から出国するまで、逮捕も勾留の心配もなく、親交のある友人宅で充実した日々を過ごすことができたというわけだ。
ここまでいえばもうお分かりだろう。
「ゴーンのような極悪人をかくまうなんてレバノンも同罪だ」とか「国際社会に訴えて、レバノンにゴーンを引き渡すよう圧力をかけるべきだ」というような主張は、かつて我々がペルーの国民感情を逆なでした行為を蒸し返すだけで、天にツバを吐くというか、やればやるほど日本のイメージを悪くさせるだけの悪手なのだ。
ついでにいえば、「今回の失態を招いた弁護士や出入国管理の関係者を厳しく処分する」「これを機に保釈の条件をもっと厳しくする」みたいなコワモテの対応に走るのもよろしくない。ゴーン劇場の思うツボになるからだ。
ゴーン氏は「日本の司法制度=基本的人権を無視した前近代的なリンチ」というイメージをつけることで、自身を「国家の暴力から逃げた被害者」というブランディングをしていくはずなので、日本の司法制度が国際的な流れに背を向けて、どんどん厳しくなっていけばいくほどありがたい。
「ね、私の言っている通り、日本ってめちゃくちゃでしょ」という感じで、ゴーン氏の主張を裏付けるナイスパスにしかならないのだ。
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