グレタさんが振りまく「終末論ムーブメント」――“破滅の未来”はなぜ人々を魅了するのか:“環境少女”が世界で受けた真相(4/4 ページ)
地球温暖化の危機を世界に訴え脚光を浴びるグレタ氏。危機論の是非とは別にこうした「終末論」が人々を魅了する現実があるという。「破滅の未来」をなぜ人々は好んで消費するのか?
「建設的な議論」より「壊滅的な未来」希求
そこに登場するのは、「世界の終わり」を前提にした各種ムーブメントやビジネスでしょう。「気候危機が続くなら子どもは生まない」と宣言する女性がZ世代を中心に表れているのが示唆的です。カナダの女子大学生が始めたキャンペーン「#NoFutureNoChildren(未来がなければ子どもは持たない)」は、およそ1カ月の間に5000人以上が賛同しています。「エコ不安症」を背景にした典型的なリアクションのように思えます。
これは人口減少社会を正当化するどころか、「生まない方が地球環境にとって倫理的だ」という価値の反転です。「出産は倫理に背き、多産は悪」という反出生主義のリバイバルといえそうです。
「気候危機による暗黒の未来」を想定した人生観、ライフスタイルの人々に向けたサービスや商品が溢れ、主として先進国で消費されることが考えられます。「免罪符」的な要素があれば大ヒットは必至でしょう。
もちろん環境危機は“リアル”です。妄想ではありません。しかし予測には不確定要素が多いのも事実であり、「終末論的シナリオ」が唯一の正解とも言い切れません。この“振れ幅”が商機の発生源にもなります。逆に言えば、「終末論的シナリオ」を頭ごなしに否定するのは困難であり、最悪の事態が起こり得るビジョンが優勢になる嫌いがあります。絶滅前の自然を堪能するエコツーリズムが活況を呈すことは想像に難しくありません。
最初に書いたように「大きな危機」への積極的な関わりは、個人が抱えるさまざまな困難といった「実存の問題」の解消と髪一重です。誰もがトゥーンベリ家のような綱渡りをできるわけではありません。
今後、オーストラリアの森林火災のような出来事が発生すると、その都度「終末論スイッチ」が入ってしまう人々が続出するでしょう。建設的な議論よりも壊滅的な未来に思考を奪われた人々です。わたしたちも遅かれ早かれ「気候危機によるストレス」にさらされ、気付けば思いもしなかった行動を取っているかもしれません。“環境少女”を巡る対立は序章のそのまた序章にすぎないのです。
真鍋厚(まなべ あつし/評論家)
1979年、奈良県天理市生まれ。大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。専門分野はテロリズム、ネット炎上、コミュニティーなど。著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)がある。
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