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シリーズ600万部突破の大ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』著者・岸見一郎が語る大ヒットの舞台裏――「はじめから世界進出を狙っていた」『嫌われる勇気』著者の仕事術(前編)(2/4 ページ)

国内累計208万部、世界累計485万部の大ヒットを記録している『嫌われる勇気』。続編の『幸せになる勇気』との合計部数は世界で600万部を突破し、21世紀を代表するベストセラーになっている。実は当初から大ヒットを狙っており、海外で翻訳版を出版することも視野に入れていたという。共著者の1人で、哲学者の岸見一郎氏に、大ヒットの裏側を語ってもらった。

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難しい言葉を使わない哲学書

――『嫌われる勇気』はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

岸見: 1999年に『アドラー心理学入門』をKKベストセラーズから出しました。当時日本ではアドラーは知られていなかったので、入門書を出して欲しいと言われて書いた本です。爆発的にヒットしたわけではありませんが、毎年2000冊ほど増刷されて、熱烈に支持してくれる人がいました。その1人が古賀さんでした。古賀さんがいろいろな編集者に、アドラー心理学の企画を持ち込んでくれていました。

――1999年の発売だとかなり前になりますが、企画はなかなか通らなかったのでしょうか。

岸見: そうですね。10年かかったと古賀さんから聞いています。それでようやく柿内さんが乗ってきたそうです。柿内さんは光文社に在籍していたときに『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(山田真哉著・光文社新書)でミリオンセラーを出した編集者です。2人が私の家にやってきて、それから出版まで2年かかりました。

――アドラーの思想に限らず、哲学書がここまで読まれるのは異例のことです。どのような工夫をしたのでしょうか。

岸見: 私はプラトンの研究者です。プラトンの本には言葉の難しさがありません。それに対して、現代の哲学者が書く本は難解で、読んでいると言葉でつまずきます。言葉でつまずくことがないよう難しい言葉を使いませんでした。

――専門用語もほとんど出てこないですね。

岸見: アドラーはあまり専門用語を使っていません。専門用語を使わない点は、アドラーはプラトンと似ています。

 それ以外にも、哲学を語るにあたってプラトンを踏襲している点があります。勇気について語る場合、多くの哲学者はまず「勇気とは何か」を定義してから対話をします。プラトンも定義から始めますが、対話の結果、最終的に結論を示す言葉にたどり着くかというと、たどり着きません。よく分からなかったところで終わります。それが哲学です。

 ソクラテスが言ったことに相手は簡単に同意しません。ソクラテスもそこは違っているのではないかと指摘して、徹底的に対話をします。世の中には答えが出ていないものがたくさんあって、その答えを探していく過程が哲学では大事なのです。

――対話形式になっていることで、本来は難解と思われる哲学的な思考が、分かりやすく読めるようになっていると感じます。

 読み方によっては、「当たり前のことが書かれている」と思われるかもしれません。アドラー自身も講演会で話をしたときに、聴いていた人から「今日の内容は当たり前の話じゃないか」と言われたことがあります。それに対してアドラーは少しもひるまず「当たり前のどこがいけない」と切り返したエピソードが残っています。

 確かに『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』に書かれているのは、言われたら「そうかな」と思う話が多いです。しかし、哲人と青年の対話を読んで初めて「なるほど、そういうことなのか」と気付いたという人も多いかと思います。

 トラウマを明確に否定して「これまでの人生に何があったとしても、今後の人生をどう生きるかについて何の影響もない」とするアドラーの目的論も、聞いて初めて分かることです。言葉はやさしくても論じられている中身がすぐに理解できるとは限りません。それでも、常識を根底から覆す対話を面白いと思ってもらえる本になっていると思います。

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