ハスラーの進歩:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)
累計48万台を販売したヒットモデルである、軽自動車のクロスオーバーモデル、ハスラーがフルモデルチェンジ。乗ってみて、全体としては明らかなレベルアップを感じた。特に質感の向上だ。少なくとも誰かが「ハスラーを買おうと思うんだけど」と筆者に相談してきた時、否定的な言葉は口にしない。
1月20日。スズキはヒットモデル「ハスラー」をフルモデルチェンジして発売した。これにより、アルトで登場したスズキの新世代シャシー「HEARTECT」がついに軽自動車全モデルに展開されたことになる。
初代ハスラーは2014年1月に軽自動車のクロスオーバーモデルとしてデビューし、19年11月までに累計48万台を販売したヒットモデルとなった。約6年間にわたり、月平均6857台を販売し続けたことになる。
ガラパゴスの至宝
ここで少し軽自動車市場全体を振り返ろう。1998年に、衝突安全基準の対応のため、外寸とエンジンキャパシティ規定が拡大されて以来、軽自動車は大躍進を果たし、ついに国内新車販売の4割を占める大きなマーケットに成長した。
台数的にもまさに日本の自動車を代表しつつある軽自動車だが、実は軽規格にはかなり根本的な問題点がある。以前から指摘している通り、全幅の1.48メートルは人が並列に二人並んで座る乗り物の寸法としては異様である。
これはわが国の法律の問題なので、メーカー各社としてはいかんともしがたいところだが、グローバルに見た乗用車最小クラスである「Aセグメント」は軒並み全幅が1.6メートル程度ある。法基準がない状態で、人間を中心にパッケージすれば、それがエンジニアリング的に自然な落としどころなのだ。
スペースの問題だけならまだしも、4つのタイヤが描く矩形(くけい)の縦横比もエンジニアリング的にあまりよろしくない。運動体としての理想はホイールベースと前後トレッドの平均値の比が、1.6になるのがベストだといわれている。閾値(いきち)はあるものの、小さければアジリティが高く、大きいとスタビリティが高い。軽自動車の場合、そのバランスポイントがエンジニアリングによってではなく、法律で決まってしまう。
もちろん、よほど本格的なスポーツカーでない限り比率は1.6にはならない。それでも軽自動車の場合、この値が1.8前後のクルマが多く、全自動車の平均に対して、明らかに大きいのだ。
関連記事
- SUVが売れる理由、セダンが売れない理由
セダンが売れない。一部の新興国を除いてすでに世界的な潮流になっているが、最初にセダンの没落が始まったのは多分日本だ。そしてセダンに代わったミニバンのマーケットを、現在侵食しているのはSUVだ。 - トヨタとスズキ 資本提携の構図
トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。その背景として大きいのがインド。スズキのインド戦略を振り返るとともに、提携による効果はどこにあるのかを探る。そして、トヨタとスズキとの提携の本丸は、インドでの工場共同設立にあるのではないか。 - 軽じゃないハスラー、スズキ・クロスビー
スズキは昨年末に小型クロスオーバーワゴン「クロスビー」を発売。スタイルを見て分かる通り、軽自動車でヒットを飛ばしたハスラーのサイズを大きくして登録車サイズに仕立て直したモデルだ。さっそく試乗したところ……。 - スズキはなぜトヨタを選んだのか?
先日トヨタとスズキの提携に関する緊急記者会見が開かれた。両社トップがその場に並び立った。この提携の背景にあるものとは? - 2018年に乗ったクルマ トヨタの「責任」とスズキの「義務」
この1年間に試乗したクルマで、特筆すべきクルマが6台ある。今回はトヨタのクラウン、カローラ・スポーツと、スズキのジムニーについて言及する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.