ハスラーの進歩:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
累計48万台を販売したヒットモデルである、軽自動車のクロスオーバーモデル、ハスラーがフルモデルチェンジ。乗ってみて、全体としては明らかなレベルアップを感じた。特に質感の向上だ。少なくとも誰かが「ハスラーを買おうと思うんだけど」と筆者に相談してきた時、否定的な言葉は口にしない。
新設計パワートレインの投入
パワートレインは全車マイルドハイブリッドだが、特に新開発のNAエンジンがなかなか面白い。まず、圧縮比が12とかなり高い。こんな圧縮比を採用できたのは、ノッキング制御技術の自信の表れだ。圧縮比は高いほど熱効率が上がるのだが、ノッキングを起こしやすくなるリスクがある。旧来はノッキングが起きると、点火タイミングを遅延させて回避してきたのだが、そうすると、熱効率が酷く悪化するのだ。
だから圧縮比を落とさず、かつ点火遅延以外の方法でノッキングを回避しなくてはならない。そのために採用されたのが、デュアルインジェクションとクールドEGR、そして急速燃焼だ。
デュアルインジェクターは、吸気ポートの最もバルブ側に寄せてある。2系統にしたことで霧化を向上させるとともに、インジェクターの噴射圧力で吸気に強い縦渦(タンブル)を作り、混合気の均質化を狙った。これによって急速燃焼が可能になり、より速く燃えることで、ピストンがより上死点に近い内に燃焼ガスの圧力を上げられるため効率が上がる。
噴射による気化冷却のことを考えれば、燃焼室内直接噴射(筒内直噴)ならなお良いだろうが、それには噴射圧を大幅に高めなくてはならないため、コストが跳ね上がってしまう。そこでインジェクションをポートの最縁部まで寄せることで、筒内直噴より低圧でも吹けるようにしつつ、噴射の勢いで燃焼室内にタンブルを起こして直噴の機能に近づけた。
ノッキング対策は、クールドEGRが主力で、インタークーラー同様の仕掛けで冷やした排気ガスを吸気に混ぜる。排気ガスには酸素がほぼ含まれていないので、燃焼が暴走(ノッキング)に入りそうな時に、不活性ガスの作用でブレーキを掛けることができる。燃焼状態をモニターしながらこのEGRを増減させることでノッキングの制御を行っているというわけだ。
ということで試乗した印象としては大変好印象だった新型エンジン「R06D」だが、「特定条件で異音が発生する」という理由で生産停止に至ったようで、納期遅れが発生しているということは申し添えておこう。
一方、旧型からキャリーオーバーのターボモデルは旧来とあまり違いがない。組み合わせるモーターも、NAの1.9馬力から僅かながら強化され3.1馬力となっている。エンジン本体出力はそれぞれ47kW(64馬力)と36kW(49馬力)だ。モーターの差を感じる人はあまりいないだろうが、全体として3割増しのパワー感は当然誰が乗っても感じるだろう。ただし、NAユニットはターボと比べない限り力不足は感じない。ハスラーのキャラクターには良くマッチした良いエンジンだと感じた。
【訂正:2020年2月17日22時 エンジン出力の値が誤っておりました。お詫びし訂正いたします。】
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