「おとなのジャンプ酒場」が“キン肉マン一色”に!? V字回復を成し遂げた“特化型戦略”の狙い:遠のいた客足をいかにして戻したか(3/3 ページ)
集英社が、2017年から居酒屋ビジネスを手掛けている。19年7月からは『週刊少年ジャンプ』とコラボした「おとなのジャンプ酒場」を同所にオープン。今回は1月7日から2月29日までで開かれている『キン肉マン酒場』に潜入。原作者のゆでたまごの1人、嶋田隆司さんに狙いをインタビューした。
ゆでたまご「キン肉マンは脇の甘い漫画」
「キン肉マン酒場」はこうした流れを受けての特化型企画の第2弾となった。コラボメニューも完全に“キン肉マン一色”となるのが特徴だ。料理を監修した、原作者のゆでたまごの嶋田隆司さんはこう話す。
「僕も食べるのが好きなので、コラボフードは仕事場に持ってきてもらって全て実際に食べて監修しています。細かい調味料の調整具合も確認しました。それだけ食に対するこだわりは大事にしています。
例えば『キン肉マン』の登場人物にはそれぞれに好きな食べ物を与えています。コミックス第1巻の3話目で大々的に牛丼を出したり。当時は牛丼って(価格の)高い食べ物だったんですよね。だからキン肉マンを見て初めて牛丼を食べたという人も多かった。今のようにチェーン店もありませんから」
以下、嶋田さんとの一問一答をお届けする。
――グッズを監修する際に気を付けていることはありますか?
「例えばアパレルであれば、『キン肉マン』ファンだけが喜ぶようなデザインのものはボツにしています。普段もカッコよく着られるかどうかを見ていますね。あとはフィギュアの顔が似ているかとか形が変じゃないかとか。毎週決まった日に監修のために2時間くらい取っています。これだけしっかり監修している作家は多くないかもしれません」
――キン肉マンが多くのファンに受け入れられている理由は何だと考えていますか?
「もともとキン肉マンは物語に矛盾があったりして脇の甘い漫画だといわれます。それは決して僕たちが目指していたところではなく、毎週毎週を面白くしようとしていた結果なのです。伏線なんて関係ないですよ。当時は『キャプテン翼』や『北斗の拳』といった人気漫画があり、すごい競争の中にいましたから」
――穴だらけの漫画だといわれていたのですね。
「僕は悩んだことがありました。こんな穴だらけの漫画を描いていていいのかなって。でもある編集者の方が『いいんだよ』と言ってくれました。その子どもたちが大人になって『キン肉マンって変な漫画だったな』って話題になる作品にした方が面白いよって。それが今現実になっているんです。この酒場に来る人たちはみんな『キン肉マンのあそこがおかしい、ここがおかしい』ってお酒を飲みながら話をしている。『キン肉マン酒場』はファンがそういう話ができる場所になっているんですね」
――突っ込みどころがあるということですね。
「よくTwitterなどで『キン肉マンのあの場面のここがおかしい』という話題が延々と続いていることがあります。そういうのを見ると、あのときの編集長の言葉は正しかったんだな、と思います。『酒の肴(さかな)になる漫画を作れ』と。連載の途中から意図して物語に隙を作っていました。そういうことも許されていたのがキン肉マンでした。ファンの人たちは“キン肉マンイズム”を理解してくれているんですよね」
――キン肉マンは途中でギャグ漫画から格闘技漫画に変わったことで人気を博しましたね。
「ギャグ漫画は消耗が激しいんですよ。1話完結にしなければいけない。それではどこかで描けなくなってしまいます。それを救ってくれたのがプロレスとか総合格闘技でした。元担当編集の松井栄元(ひでゆき)さんに提案されたんです。松井さんはものすごい情報量を常に持っていました。そして横山光輝さんの『伊賀の影丸』を読んでほしいと言われました。
読んでみると5対5で戦うといった、キャラクターの戦い方や設定がキン肉マンに似ていました。それでとにかく『伊賀の影丸』を読んで物語の作り方を学びました。当時は手塚治虫先生と横山光輝先生が二大巨塔でした。『キン肉マン』の“仲間と一緒に戦う”、という設定は、松井さんをきっかけに『伊賀の影丸』から学びましたね。教科書ですよ」
「今後はもう1回アニメ化を目指したいですね。そのために今も毎週、一生懸命描いているようなものです。昔は『アニメ化されると雑誌が売れない』といわれていましたが『キン肉マン』と『Dr.スランプ アラレちゃん』が状況を変えました。その後、『北斗の拳』も『キャプテン翼』もアニメ化されました。
今の40代からは『キン肉マン』のアニメをもう一度見たいと言われます。難しい時代だとは思いますが、地上波でもう一度『キン肉マン』を見てもらいたい」
「キン肉マン酒場」の客足は、嶋田さんの監修もあり順調に伸びている。やはり、バーティカル戦略が今後もカギを握りそうだ。
(C) ゆでたまご/集英社
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