炎上「宇崎ちゃん」献血コラボ継続の影で、ラブライブのパネルが撤去されたワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
静岡県沼津市のJAなんすん(南駿)と人気アニメーションの「ラブライブ!サンシャイン!!」コラボが物議を醸している。女性のイラストに抗議が殺到するという構図は、日本赤十字社と人気漫画「宇崎ちゃんは遊びたい」がコラボした「献血ポスター」の事例が記憶に新しい。本稿では日本赤十字社側がなぜ抗議を受けても方針を変えず、JAなんすん側は抗議で方針を変えたのかをビジネス面から検討していきたい。
抗議を待たずお蔵入りになる例も少なくない?
このような損失回避性に基づく意思決定は、抗議に至る前に行われることもあるようだ。それは、2月19日に話題となった岐阜県・郡上八幡城のチラシイメージ差し替えだ。
筆者は、当時のチラシキャラに起用される予定だった、およしちゃん(@oyoshi_gujo)に話を聞いた。およしちゃんは、2016年の郡上八幡城新緑まつりのチラシでデビューする予定だったようだ。しかし女の子キャラクターやアニメ絵が群上八幡にふさわしくないという管理者側の懸念によって、市民の抗議を待たずにキャラクターの使用停止が通告されたという(なお、およしちゃんは、起用が白紙になった今でも個人として郡上八幡のPR役を担っている)。
このように、炎上前にも、損失回避的な意思決定が活動を妨げてしまう例は決して少なくないのかもしれない。
では、日本赤十字社はなぜ渦中の「宇崎ちゃん」ポスターの使用を続けたのだろうか。それは、事前検討が十分になされていたからであるだろう。日本赤十字社の「宇崎ちゃん」ポスターは、そもそも書店に並ぶ同漫画の表紙を改変したもので、現在でも書店で陳列、販売されているイラストを用いていた。
ほかにも、日本赤十字社が非営利・中立的側面の強い組織であることも大きい。日本赤十字社は、特定の思想や政党、ステークホルダーに左右されないために「公平」「中立」「独立」といった基本原則を定めている。「不快」という意見だけに耳を傾けることは、日本赤十字社の理念から考えるとブレていることになるだろう。
また、PRの本質が定められていることも見逃してはならない。コラボを中止すれば、献血量が減少することはあっても、大幅に増えるということはない。献血という互助を原則とした活動に興味を持つ機会をなくすことは、それ自体が社会的な損失になり得る。その意味では、日本赤十字社は、炎上によるレピュテーションの低下リスクと、血液が必要な人のために用意できる量が少なくなるリスクを冷静に分析し、後者のリスクが重いと判断したとみられる。
思わぬ角度から炎上の火種が投げ込まれるリスクがある現代では、事前にPRで理念や目的をはっきりさせ、ブレない方針を定めることが損失回避性による意識決定の歪みを是正するために有効だ。一見大きな抗議の声の裏にある、さらに多くの声なき声を加味した対応ができるかが、PR活動を行う上で重要なのだ。
そのような意味では、JAなんすん側の対応は、やや冷静さを欠き、結論を急いだといわれても仕方がないのかもしれない。
結局、JAなんすんは炎上で恩恵を受けた?
一方で、この問題が取りざたされた結果、JAなんすんがプロモーションしたかった「西浦みかん」は打撃を被るどころか、思わぬ宣伝効果が出たことを示唆するデータもある。Google Trendsにおける過去5年の「西浦みかん」の検索人気度の推移だ。
このたびの炎上騒動によって、西浦みかんの注目度が足元で急上昇しており、過去5年における検索人気度の最高値を2倍以上も上回る勢いとなった。さらに、2月18日の時点で、高海千歌さんをあしらった10キロの箱入りみかんは完売していた。
おそらく抗議の意図とは裏腹であるだろうが、結果的には抗議を行った側がプロモーションの立役者になってしまったのかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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