2015年7月27日以前の記事
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「ノーベル賞は過去の栄光」――三菱ケミカルHD小林喜光会長が語る「日本が“2流国”に転落しないための処方箋」三菱ケミカルHD小林喜光会長が斬る(前編)(2/4 ページ)

「技術立国ニッポン」が揺らいでいる。AIや5Gなどの先端分野では中国が日本のはるか先を走り、「ものづくり」で高度経済成長を牽引した日本企業の存在感は低下している。そんな中で、日本はどのような科学技術政策を取っていけばいいのだろうか。経済界を代表する論客の一人である小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長(経済同友会前代表幹事)に、日本の技術の現状と求められる対応策を聞いた。

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サイエンスとテクノロジーの組み合わせ

――今のお話ですが、研究開発では基礎研究の重要性がよく指摘されますが、応用技術との関係はどう見ればよいのでしょうか。

 基礎研究と、社会に実装する応用研究とは並行して実施すべきです。これまでは、開発した技術を「いかにして社会に実装するか」という視点が少なかったですね。

 基礎研究は自動車のハンドルの遊びの部分のようなもので必要ではありますが、肝心の経済や社会にいかに効用をもたらすかという部分は応用研究になるので、比率的には基礎研究2割、応用研究8割くらいがちょうど良いのではないでしょうか。

――小林会長は以前から交流のある(カルフォルニア大学サンタバーバラ校教授の)中村修二さんが青色発光ダイオードの発明によって14年にノーベル物理学賞を受賞した際に、ストックホルムで行われた授賞式に招待されたことがあるそうですね。

 はい。現地に行って驚いたのは、取材に来ていたのは大半が日本メディアで、欧米の記者にとってノーベル賞受賞は「当たり前」、それほど特別なことではないという感じだったことです。授賞式から晩餐会まで大きく報道しているのは日本のマスメディアだけ。日本人がノーベル賞を受賞するたびに、大騒ぎする報道ぶりを見ると、日本が技術の後進国だと逆に痛感しますね。

――ノーベル賞を受賞した吉野さんは、日本企業が技術立国として生き残るためには、得意とする素材分野の川上の領域(例えば炭素繊維)と、実際に製品を作る川下の分野(軽量で頑丈な特性を生かした新型旅客機機体や自動車のボディー)をうまく融合させることが必要だと主張しています。こうした研究開発の力によって日本経済を立て直すためには何が必要でしょうか。

 これからはスマートフォンのように、サイエンスとITを含めたテクノロジーを組み合わせて社会システムをイノベート(革新)するようなものが求められています。単にある領域で画期的な発明や発見をするだけでは不十分で、それらをまとめ上げてシステムや社会の在り方そのものを刷新するようなものを仕上げなければ、グローバル競争では勝ち残っていけません。日本はこの20年で技術開発では遅れてしまいました。ですが、モノづくりでは一日の長があるので、これを生かすような形で技術開発を進めれば、まだまだ可能性はありますね。

――そのためにはどういう人材が必要になりますか。

 システム関係のエンジニアの中でも統計やデータ処理・分析ができるデータサイエンティストが必要です。わが社にはいま1500人ほどのシステムエンジニアがいる一方、データサイエンティストは30〜50人しかいませんので、もっと増やそうと考えています。

――デジタル時代になり、研究の手法は20年前と比べると変わってきていますか。

 いまはグループやチームワークで研究成果を出す時代です。湯川秀樹さんや朝永振一郎さんの時代は、1人の天才が顕微鏡を見て驚くべきことを発見していた一方、現在は多くの人が共同作業をしながらトータルで成果を出す時代になっていますね。

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