いまさら聞けない自動車の動力源の話 ICE編 1:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
ここ最近、クルマの話題で、いろいろと耳慣れない単語が増えている。ICEやレンジエクステンダーやシリーズハイブリッド、マイルドハイブリッドなど、分かるような分からないような単語が多い。実はITmediaビジネスオンラインの編集部でも「クルマの記事は難しい」という声が出ているらしく、一度おさらいをしておこう。
空気と燃料の比率、空燃比の違い
ここまで着火のメカニズム面から2種類のエンジンを比較してきたが、もうひとつ大事なことがある。それは空燃比だ。文字のごとく空気と燃料の比率で、ガソリンの場合14.7:1と決まっている。これは2・H2+O2=2・H2Oと同じ理屈で、炭素と酸素の数の辻褄(つじつま)が合わないと、うまく燃えないからで、数値は重量比になる。つまり14.7グラムの空気と1グラムのガソリンが反応すると、余りが出ないという意味だ。
ガソリンエンジンの場合、空気に対して燃料が少ないとそもそも火が着かない。だから理論混合比にするのだが、何とか燃料を節約しようとして燃料の比率を減らしていくと、火炎伝播が途切れてしまう。草原の話でいえば、草の生え具合が薄いところで火が消えてしまうようなものだ。90年代には、燃費向上のために薄い混合気を燃やそうと各社がチャレンジした。このリーン・バーンエンジン(希薄燃焼エンジン)は新技術として注目されたのだが、火炎伝播の問題で燃焼がくすぶり、トラブルが続発して各社が撤退した。
ディーゼルの場合、ありがたいことにこういうことが起きない。空気が足りないのは困るが、多い分には構わない。火炎伝播に頼らず、燃料の粒子が、高温の雰囲気によって同時多発的に自己着火する方式なので、燃料が薄くても問題なく燃える。これもまたディーゼルの燃費が良い理由の1つになっている。
ガソリンエンジンでは吸気量と燃料噴射量を両方を二元制御する必要があるが、ディーゼルでは空気はほぼ管理する必要がない。常時最大限に吸い込んで、出力調整は燃料噴射量だけで行う。
しかし、全てにパーフェクトなものは存在しない。ディーゼルの場合圧縮された空気にインジェクターのノズルから燃料を噴射するので、燃料と空気が十分に混ざり合うよりずっと前に、吹いた側からノズル付近で燃え始めてしまう。つまり、燃焼室内で空気と燃料の比率のムラが生じやすい。ノズル近くでは酸素が足りず、ノズルから遠いエリアでは燃料が足りなくなる。
酸素が足りないと煤(スス)が出る。そして燃料が足りないと空気が高温で熱せられて、本来そう簡単に反応しない窒素と酸素が反応して窒素酸化物ができてしまう。これはNOxと呼ばれ、太陽光に当たると光化学スモッグに変化する。温室効果ガスとは別の問題が発生するのだ。欧州でPM(粒状物質・煤)や大気汚染の問題が厳しく指摘されているのは、ディーゼルが普及し過ぎたせいだ。
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