トヨタの役員体制変更の狙いは何か?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
4月1日、トヨタは役員体制を大幅に変更し、階級の階層を減らしてシンプル化した。具体的には従来の「副社長」を廃止して「執行役員」に一本化した。一見狙いが分かりにくい人事制度改革だが、実は骨太な方針に沿ったものだ。
フラット化人事の意味するところ
そして18年。今度は副社長を廃止し、役員全てをフラットな構成に変えた。これの意味するところは何か?
過去に行ってきた改革の延長線にその目的は必ずある。主軸は組織のコンパクト化だが、もうひとつマーケットの変化に対して追従性の高い柔軟な組織ということがある。例えば18年の外部人材登用の拡大などはその文脈にある。トヨタ自動車37万人の中で取締役に上り詰めるのはまあ尋常なことではない。それは全ての社員の希望であり、モチベーションだ。その貴重な椅子はコンパクト化でどんどん減っている。加えて、外部から来た人間にさらわれるとなれば反発もまた大変なことだろう。
しかし、それを重視していては戦いに勝てない。過去に戻ってプログラムや画像処理やビッグデータの専門家を20年掛けて育てる方法がない以上、外部から連れてくる以外にない。だからおそらくは断腸の思いでそれを決めた。それは実務がそういう人材を必要としているという現実に柔軟に対応する手段である。
役員の中に副社長だ常務だ専務だ平取だという序列があると、迫り来る現実への対応にいちいち肩書きや席次のすり合わせが必要になる。そしてそんなことをしていては勝てないのだ。
だから全てフラットにして、どんな状況でも最適な人材を最適な場所に配置できる柔軟さが求められる。状況に応じて最適なプロジェクトチームを結成し、最も適任な者がリーダーシップを取り、最速でプロジェクトを回す。
トヨタは、18年1月にトヨタ生産方式(TPS)を事務職にも取り入れるために、TPS本部を設立した。そのひとつの象徴が「ホワイトカラー7つの無駄」だ(18年7月の記事参照)。
- 会議の無駄
- 資料の無駄
- 根回しの無駄
- 調整の無駄
- 上司のプライドの無駄
- まんねりの無駄
- 「ごっこ」の無駄
11年からの改革を見ると、すべてこの原則に則っていることがわかる。
組織のスリム化や役員の削減、ビジネスユニットの設置やカンパニー制の導入は1から4の無駄の排除だし、高度な専門性を持つ人材の拡大登用は5と7に該当するだろう。そして今回の役員のフラット化もまた、「ごっこ」の無駄の排除である。役職が下だと上を使いにくいなどという話は、豊田章男社長が言う「生きるか死ぬかの瀬戸際」、あるいは「100年に一度の改革」の前で拘(こだわ)るような話ではない。
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