新品の電車はどうやって運ばれる? 線路をどこまでもつなぐ、2つの理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
3月26日深夜、新潟県のえちごトキめき鉄道で珍しい列車が走った。しなの鉄道向けに新規製造された電車を運ぶ「甲種輸送」だ。線路がつながっていれば、他の鉄道会社の線路を経由して電車を運べる。だが、鉄道ネットワークにはもう一つ大きな役割がある。
線路をつなぐ理由、切断する理由
甲種輸送の効率がいいから、ほとんどの鉄道車両工場はJRの在来線と接続する引き込み線を持っている。在来線規格の車両であれば、そのまま出荷できる。総合車両製作所の横浜事業所は京浜急行金沢文庫駅に隣接しているけれども、京浜急行は標準軌といってJR在来線よりレールの間隔が広い。そこで、わざわざ工場〜金沢文庫駅〜神武寺駅まで、レールを3本にして在来線の車両も走行可能にしている。神武寺からは引き込み線を出して、JR横須賀線の逗子駅につながっている。
一方、線路の規格が同じでも接続線路を切ってしまった場合はトレーラー輸送になる。例えば大井川鐵道はかつて東海道本線金谷駅と線路がつながっていたけれども、現在は線路を切ってしまった。この場合は他社の中古車両を購入した場合も陸送になる。
長野電鉄もかつては信越本線(現・しなの鉄道)と屋代駅でつながっており、上野から直通列車もあったけれども、現在は切断されている。長野電鉄は東京メトロ日比谷線で活躍した03系電車を譲受したけれども、北長野駅までは甲種輸送され、北長野から須坂駅までは乙種輸送となった。
線路がつながっていれば甲種輸送ができたし、他の鉄道と直通運転もできた。線路を切断する理由は維持費だ。JRと直通する線路は、JRと同等の保安設備が求められる。その維持費と直通運転の頻度で費用対効果を検討した結果、小さな地方鉄道は、まれな車両輸送のためだけに線路をつないだままにするなんてコストに合わないという判断になる。
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