元経産官僚・岸博幸が斬る――リニア反対は「私利私欲」、静岡県を貶める川勝知事の「醜悪パフォーマンス」:検証・リニア静岡問題(4/4 ページ)
静岡県の川勝平太知事はリニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に関して、またまた「いちゃもん」を付けた。国土交通省が、静岡県とJR東海の仲介役となって設置した有識者会議の人選について、提案した5人の河川工学の専門家のうちの1人を、「中立性に疑問がある」として、独自に委員を公募すると言い出したのだ。元経済産業省官僚で政府の「IT戦略本部」にもかかわった経験のある岸博幸さんにインタビューした。
東京と名古屋が結ばれる意義
──リニア新幹線の意義について、どのように考えていますか。
リニア中央新幹線は、2027年に東京・名古屋間の開業を予定しています。やはり東京と名古屋が約40分で結ばれるというのは、非常に大事なことです。経済が発展するには、イノベーションが必要ですが、そのためには「人の集積」が大事なんですね。人の集積がある町や地域で、人の交流があって、イノベーションが生まれるからです。これは、社会学者のリチャード・フロリダ(カナダ・トロント大学教授)も言っていることです。
その意味で、関東は非常に有利なエリアで、東京だけでなく、首都圏の一都六県を入れると、人口は約3500万人にも上ります。これだけ首都圏に人口が集中しているのは、世界中で日本だけです。
本来は東京でもっともっとイノベーションが生まれてもおかしくないんですが、それができないのは、大企業がダメだから仕方がありません。
その東京と、名古屋を中心とする中京エリアが、リニア中央新幹線により約40分で結ばれることになります。40分といえば、東京駅から千葉駅や国立駅などの通勤エリアです。
世界一人口が集積している東京・首都圏と、日本で最も製造業の強い名古屋を中心とする中京圏が結ばれれば、人の集積と製造技術がつながって、イノベーションが起きやすくなる。日本全体のプラスにもなるでしょう。さらに将来的には大阪・関西圏までつながります。
それを、己の知事選のために、工事の足を引っ張って開業予定を遅らせたりすれば、日本の国益を損なうことになりますよね。
──今後、リニア中央新幹線や静岡県は、どうなるのでしょうか。
川勝さんを見ていると、国交省の役人の悪口を平気で会見場で口にし、三重県の鈴木英敬知事へも「うそつきは泥棒の始まり」だと言い、図書館を文化の拠点にする構想に反対した自民党県議団を「ヤクザ」「ゴロツキの集団」呼ばわりをする(川勝知事の「ヤクザ」「ゴロツキ」発言については関連記事「リニアを止める静岡県 川勝知事「ヤクザ・ゴロツキ」暴言問題の背景に「ハコモノ行政」」を参照されたい)。
こういう発言を首長として、政治家として言っていいか悪いかなんて、3秒考えれば分かることなのに、それさえできていない。そして、専門家の公募や図書館を文化の拠点とするような愚策を連続して行っている。
JR東海や国交省を仮想敵に仕立てて、県民のために闘っているかのようなパフォーマンスをするような人は、わりと左がかった人に受けるんですよ。それで良いのか、という話です。
私は、川勝さんは知事としての資質に著しく欠けると思っています。
地元紙をはじめ、川勝知事を批判する地元メディアはほとんどなく、意見する側近もいない。難波喬司副知事は国交省の出身にもかかわらず、知事の「暴走」に付き従うだけで情けない。
もし、自民党が有力な対抗馬を出せなければ、川勝さんは来年の知事選で再選されるでしょう。そして、川勝さんが知事でいる限り、リニア中央新幹線の工事は進展せず、静岡県は地盤沈下して、人口減少が続くと思います。
現状では、“静岡県の常識は、日本の非常識”になっているように思われます。静岡県以外の国民からみると、知事の暴走は「静岡県はおかしい」と映る。リテラシーの高い人を中心に、世間の静岡県に対する目は既に後戻り困難なほどに厳しくなっている。これだけでも大きな損害ですが、正攻法でやらず、「悪手」を続ければ、静岡県全体の心証を一層悪くするだけだと思います。
「0点知事」のパフォーマンスと、知事にべったりの地元紙のプロパガンダに乗せられている静岡県民はかわいそう、としか言いようがありません。
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