1分1秒を争っているのに、なぜ政治家の仕事は遅くイライラするのか:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療崩壊の危機が連日のように報じられている。こうした事態に対して、国民はどのように感じているのか。政府の対応は「遅い」「危機感がない」といった声が出ているが、なぜそのように感じるのか。筆者の窪田氏は、このように見ていて……。
安倍首相は典型的な「調整型リーダー」
そう考えると、今回の日本政府に一抹の不安が残る。これまでの新型コロナ対策を見ても分かるように、安倍首相が独裁的に決めたことなどなにひとつもない。緊急事態宣言を出すのも諮問会議を開き、専門家の耳を傾けて、官僚が調整をして物事を動かしている。組織としては極めて民主的で、法的根拠にのっとった適正なプロセスを踏んでいる。しかし、国民のほとんどはピンときていない。むしろ、国民の感覚とかけ離れていると不満を漏らしている。
つまり、政府は「調整」や「根回し」をしっかりとしながら「暴走」しているのだ。
そんなバカな話があるかと思うかもしれないが、実は筆者が生業とする危機管理の世界ではこういう「暴走」は珍しくない。
例えば、品質問題が発覚したさる企業のリスク対応のサポートをしたことがある。社長をトップとした「危機管理委員会」が招集され、各部門の責任者が対応を協議する現場に立ち会わせていただいたが、そこではこの問題を社会がどう捉えるかとか、一般消費者がどう感じるのかという視点で語る人が皆無だった。
「営業としては取引先に事前に説明しないといけないので公表はもう少し待って欲しい」
「工場としても原因を究明しないことには対応ができないので時間がほしい」
「今の段階で公表をしても、説明できる材料がないので、事実関係を把握してからのほうがいいのでは」
なんて感じで各部門それぞれの「立場」を主張し合って、それぞれの意見を調整することに2時間以上が費やされた。そして、最終的にたどり着いた結論は「公表しない」。つまり、世間的には「隠ぺい」とも取られかねない判断だった。
「危機」に対して組織一丸で取り組んで、内部の意見の調整をした結果がこれだ。内部論理を優先する組織というものは必ず「暴走」するものなのだ。
このような事態を避けるには、「強いリーダー」が不可欠だ。内部理論に流されそうなところを、本来やるべき施策へと引き戻すことができるリーダーがいて、はじめて組織の暴走が止まる。
独裁者だなんだと叩かれることの多い安倍首相だが、これまでの新型コロナ対策で首相が独裁的に決めたことはひとつもない。緊急事態宣言を出すのも諮問会議を開き、専門家の耳を傾けて、官僚が調整をして物事を動かしている。
日本政府の新型コロナ対策の「迷走」は、安倍首相が東條英機のような典型的な「調整型リーダー」だからなのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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