日本車のアメリカ進出 いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 3:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
不可能と思われた厳しい「昭和53年規制」。各社の技術は、最終的に電子制御インジェクターと酸化還元触媒へと収斂(しゅうれん)して、技術的スタンダードが確立した。次に、各社は、排ガス規制で失われたパワーを取り戻すチャレンジを始める。日本車がハイテクカーと呼ばれて世界を席巻するまでの流れをひもとく。
低排出ガスと省燃費のさらなる進化
低排出ガスと省燃費を達成した国内自動車メーカー各社は、次に、排ガス規制で失われたパワーを取り戻すチャレンジを始める。
まずはインジェクションの吸気流量計の精度向上である。酸化還元触媒が、精密な空燃比コントールを求めるものであるとすれば、これは当然の流れである。インジェクションが採用され始めた当初、吸気通路にフラップを置いて、そのフラップの角度変化によって、吸気量を測定する方式が採用された。しかしながらこのフラップが吸入抵抗になり、また外気圧や気温による空気の密度差を精密に判別できない。これらの問題点を解決するために、ホットワイヤー式やカルマン渦に代表される、速度 x 密度(speed density)方式へと変わっていった。
ホットワイヤー式は、流路に電熱線を渡し、この温度が一定になるように電流を流すと、温度維持に必要な電流量が吸気の速度 x 密度に比例する特性を利用したものだ。もう一つのカルマン渦方式では、流路に置いた三角柱の後方にできる渦の数で、吸気の速度 x 密度を測定する方法。渦の数の検出には、超音波を用いていた。
このように、排気ガス測定モードの領域を、徹底して理論空燃比(ストイキオメトリー)にコントロールする技術を磨いていった。燃料を精密に燃やすことは、排ガスをキレイにし、燃費を向上させ、パワーも出るということで全てが理想的である。
しかしそれはどの程度正直だったといえば、あまり正直だったとはいえない。排ガスが測定されない領域、例えば全開加速での高回転域などでは、まだ奥の手が使えるからである。それは禁断のパワー空燃比だ。理論空燃比より、燃料を増やしたリッチな混合気を作ると、純粋にパワーだけを求めるならさらなる効果が得られる。ただし、排ガスは一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)が急増し、燃費もガタ落ちする。カタログ燃費と実燃費が大きく乖離(かいり)する理由になっていた。
イリーガルな領域ではあるが、例えば最高速巡航のような場面では、さらに燃料を濃く吹いて、燃料の気化潜熱でバルブ周りの冷却まで行っていた。
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