日本車のアメリカ進出 いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 3:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
不可能と思われた厳しい「昭和53年規制」。各社の技術は、最終的に電子制御インジェクターと酸化還元触媒へと収斂(しゅうれん)して、技術的スタンダードが確立した。次に、各社は、排ガス規制で失われたパワーを取り戻すチャレンジを始める。日本車がハイテクカーと呼ばれて世界を席巻するまでの流れをひもとく。
こうやってエンジンそのものの耐ノック製を向上させた上で、ノックセンサーを採用した。従来はノッキングリスクのある条件では、無条件で点火タイミングを遅らせていたのだが、そんなことをすれば着火が圧縮上死点から遅れ、当然実質的な圧縮比を落とすことになる。
点火タイミングの進角・遅角は、2つの仕組みでコントロールされている。エンジン回転の増減で遠心式の重りが動く仕組みと、吸気管の負圧で作動するダイヤフラムだ。この2種の仕掛けで、圧縮上死点に対して、点火タイミングを前後にズラす制御が可能になる。
遠心力と負圧を利用してうまいこと制御しているのだが、それは擬似的な相関関係に依存しているだけで、本当にノッキングぎりぎりに制御したいならば、ノッキング自体をセンシングするしかない。そこで点火プラグとヘッドの間に、圧力センサーを挟み込むことにした。
プラグの先端は燃焼室に突き出しているから、そこには燃焼圧の変化が振動として伝わる。ノッキング特有の振動を圧力変化として感知するセンサーがあれば、ノッキングの観測が可能である。ノッキングによってもたらされる害は、燃焼室内面の融解なので、1サイクルでしっかり検知し、遅角させれば実害はない。
こうして日本車は新たな評価を手に入れた。ハイテクカーとしての憧れである。アメリカ進出時は「安かろう、悪かろう」と謗(そし)られたクルマが、「壊れなくて燃費が良い」と評価され、ついに80年代にはそのハイテクでジャパンブランドを築き上げた。
しかしエンジンの進化はまだまだ終わりではない。この連載はまだまだ続く。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。
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