ターボの時代 いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 4:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
排ガス規制で動力性能を失った反動で、パワー競争の時代が始まる。昭和53年は西暦では1978年。そのたった2年後の80年に、日産は一気にターボ攻勢に入る。セドリック/グロリアにブルーバードが続き、本命のスカイラインにもターボモデルが追加された。その後、200馬力級がゴロゴロ登場するとともに、コンパクトモデルにもターボモデルが追加されて、馬力がインフレを起こしていく。
さてICE(内燃機関)の発展史の4回目は、第一期ターボ時代の話になる。
第一回では排ガス規制以前のエンジンの話、第二回では排ガス規制対策、第三回では排ガス規制で失われたパワーを取り戻していくストーリーを書いた。大きく見て要素は2つあり、DOHC4バルブ化によるセンタープラグ配置で、構造的な耐ノック性を向上させ、圧縮比を引き上げたことが1つ。加えて、実効圧縮比を下げてしまう点火タイミングのリタード(遅角)への処方箋(しょほうせん)として、ノックセンサーが投入されたという話だった。
このノックセンサーの採用によって、ターボが普及していった過程を描くのが今回の肝である。
法規制と技術革新
日本の自動車産業にとって、昭和48、50、53年と段階的に実施された排気ガス規制は、極めて大きなターニングポイントであった。国内メーカー各社は、これらをクリアしたことで技術的に飛躍を遂げ、一躍世界のトッププレイヤーに駆け上がった。
米国が、規制を大幅に緩和して極めて現実的に対策を進めている間に、日本はいち早く技術革新を成し遂げて、次のステージである高性能化へと舵(かじ)を切ったのである。これについては、チャレンジングな姿勢を持つことの大事さとして取り上げられることが多いが、正直な話をすれば、結果オーライに過ぎなかったというのも、また一面の真実である。
特定産業に対し、法規制がストレスを与えることがばねになって飛躍することは確かにあるし、排ガス規制はその成功例でもある。しかし、別の可能性として、あそこで無理し過ぎた結果、大幅に性能が劣り、かつ規制値も達成できない製品ばかりになって、グローバルな競争の中で日本の自動車産業が自滅するリスクもあった。米国の油断を突いて裏をかくビジョンがあったわけでもなく、ただ一度決めたことだからという理由で、本家米国すらが下方修正した目標値を、無修正で猪突猛進しただけだからだ。
そこから挑戦の意を汲(く)んで教訓とするのは、いささか牽強付会(けんきょうふかい)というもの。チャレンジの美化が過ぎる。何が言いたいかといえば、そもそもリスクテイクは手段であって目的ではないという話だ。目的はあくまでも事業の継続的発展だ。これは肝に銘じておかないと、時折ひっくり返る。
プロ野球選手やロックスターには、「なろうという意思」がなければなれないのも事実だが、だからといって一つ覚えに「夢を諦めるな」みたいな綺麗事を言っても仕方がない。ちゃんと実現可能性を判別して決定すべき問題で、実力があって実績があっても、「そこまでやっても絶対はない」というステージに至って初めて、チャレンジスピリットが重要になってくる。物語の中ならともかく、現実世界では「努力は裏切ることもある」のは大人の常識なのだ。
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