象が踏んでも壊れないトヨタの決算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。
さて、自動車メーカー各社の決算発表の時期がやってきた。例年はGW明け直後に各社の発表が集中するのだが、今年は緊急事態宣言を受けて、少し発表が遅れると共に、各社リモートでの発表会となった。
さて、リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。追って説明しよう。
まずはトヨタに限らず、3月末締め決算の社にとって、新型コロナの影響はどんなものなのか? マーケット全体の概況からだ。今回発表された決算は、2019年4月から20年3月までの期間である。日米欧などの主要市場に関して、新型コロナの影響でロックダウンなどの激震に見舞われたのは、実質的には3月の一月分だけだ。ただし、日本は影響を受けたのが少し早く、2月から多少の影響は出始めている。中国での流行はもっと早く、武漢がロックダウンされたのは1月23日から。なので、地域によるとはいえ、中国では1月から多大な影響を受けているはずだ。
しかしながら、国内自動車メーカーの中国法人は現地資本が筆頭株主であり、日本のメーカーに対しては持分法適用の範囲内(ざっくり半分と考えればいい)でしか影響を受けない。しかも期の区切りが4月-3月ではなく1月-12月になるため、中国での影響もまた当期にはほぼ影響を及ぼさない。
要するにどのマーケットであっても、期間的に見て、各社の当期決算への、コロナの影響は現状の厳しさからイメージするよりは限定的である。大局的に見れば、影響は中国以外のエリアでの約1カ月分。12分の1強くらいになるはずで、仮にこの期間の売り上げがゼロになったとすれば、多少早めに影響が出た日本を加味しても10%ダウン程度となる。ただし現実的にはゼロにはならず、半減と見て5%ダウン程度を見込むのが妥当だろう。ただし、これはあくまでも台数ベースの話であり、売り上げや利益はまた別の話である。
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