象が踏んでも壊れないトヨタの決算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。
アフターコロナ
さて、ここからこの未曾有(みぞう)の経済危機の中で、21年度をどう見立てるかという話につながっていく、コロナの影響がどうなるかという話だ。
まずいっておかなくてはならないのは、これだけの先の見えない状況で、トヨタは21年度の見通しを数字として発表して見せたことだ。おそらく他社は見通し発表を見送るだろう。
なぜそんなことができるかといえば、おそらくトヨタだけが、このコロナ危機に直撃される21年3月期決算を黒字で乗り切れる可能性が高いことが第一にある。それは途轍(とてつ)もないミラクルである。そのミラクルは棚ぼたでやってきたわけではなく、トヨタがリーマンショック以降必死で取り組んできた構造改革の成果であり、その中核にあるのがTNGAである。
もう一点大事なのは、全トヨタの社員を始め、サプライヤ各社にとって、トヨタが大丈夫だと言ってくれることは希望である。コロナがどのように収束していくか世界の誰にも明確に分からない今、予定を立てるのは相当に厳しい。外れた時には「甘く見ているから」と指弾されかねない。
トヨタは、不確定要素が多い中での予想と断りつつも、アフターコロナの経済回復について、4月を底に徐々に回復して年末から来年にかけて前年並に戻ることを前提とするという見立てで、具体的には台数ベースで、4-6月期で前期比6割程度、7-9月期で8割、10-12月期で9割を目処としているという。
実はIMFが発表した世界経済見通し(WEO)の標準シナリオでは、実質GDP成長率は、20年のグローバルはマイナス3.0%、翌21年はプラス5.8%と見込んでいる。数字的にはトヨタの見立ての方が悲観的だが、回復のタイミング自体は大きな齟齬(そご)はない。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、世界中で多くの犠牲者が発生し、その数は増え続けている。命を守り、医療システムの対応能力を維持するため、隔離、都市封鎖、そして広範な事業閉鎖によってウイルス拡散を遅らせることが必要になった。このため今回の公衆衛生危機は経済活動に甚大な影響を与えている。感染症の世界的流行によって、世界経済は2020年にマイナス3%と大幅な縮小が予想され、これは2008年から2009年にかけての世界金融危機のときよりもはるかに深刻だ。2020年後半にパンデミックが収束し、拡散防止措置を徐々に解除することが可能になるという想定に基づくベースラインシナリオによると、2021年には政策支援もあって経済活動が正常化し、世界経済は5.8%成長すると予想される。
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