コロナ禍で露呈 あなたは「人間性を疑う」上司やパートナーと居続けるべきか:非常事態が問うもの(4/4 ページ)
コロナ禍で社会を見る目が根本的に変化。中でも筆者は人間関係の問題が暴かれたと指摘。コロナ後も「人間性を疑う」レベルの上司や伴侶とあなたはつるむのか?
地震や噴火、津波や大洪水といった自然災害を、「遊動者」はひょいっと移動することで軽くかわす術を心得ていましたが、わたしたちは「定住」という言葉が示す通り、あくまでそこに留(とど)まろうとしてしまいます。住居というストックが象徴的ですが、所有という概念に根差した固定的な社会があるからです。
元の世界にはもう戻れない
人間関係やコミュニティーに対するスタンスもこの傾向に半ば惰性で引きずられ、非常時においてもこの「基本戦略」を忠実に遂行しようとしてがんじがらめになっているのです。「不快であったとしても、危険が近づいたとしても」「人間性を疑う」連中とつるみ続けることを選んでしまうのです。
当たり前ですが、わたしたちは気まぐれに「遊動者」へと先祖返りするようなことはできません。そのような社会はほとんど存在しないからです。とはいえ、「遊動者の知恵」から学ぶことはできるでしょう。
今日的な「遊動者の知恵」とは、フランクルの警句に従えば、「裸の実存」を物事の判断の中核に据えて、尊厳を損なうような場所から、実りのない関係性から、素早く見切りをつけるフットワークのことです。
「わたしたちはもう元の世界には戻れない」――これはSF小説の台詞などではありません。コントロールできない現実と向き合うことは時に空恐ろしいものに感じられるものです。
そのような感情の反動、あるいは逃避として世の中は笑気ガスを吸ったような酩酊や滑稽さというノイズで溢れ返ることになります。だからこそ、わたしたちは、その記憶の古層に埋もれた最も原始的な音色に耳をそばだててみることが必要なのです。
真鍋厚(まなべ あつし/評論家)
1979年、奈良県天理市生まれ。大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。専門分野はテロリズム、ネット炎上、コミュニティーなど。著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)がある。
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