木村花さんへのヘイトを煽ったフジテレビは、「無罪放免」でいいのか:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演中だったプロレスラー、木村花さんが死去した。彼女を死に追いやったと言われている「ネットリンチ」は、なぜ起きたのか。番組を制作していたフジテレビに責任はないのか。
リアリティー番組の「狂気」
「それがリアリティー番組の面白さなのだ」と主張するファンも多いだろう。筆者はこのフォーマットをすべて否定するつもりはないし、リアリティー番組をすべて中止にせよなどと言うつもりもない。ただ、視聴者が面白いと感じさえすれば、出演者の人生などどうなろうとお構いなしという考え方をしていると、いつまでもこのような悲劇はなくならないと言いたいだけだ。
そのような警鐘は実はずいぶん古くから鳴らされていた。それを象徴するのが1998年に日本でも公開された映画「トゥルーマン・ショー」だ。
この映画は、生まれたときから私生活をリアリティー番組で24時間365日生中継されている男、トゥルーマンの話である。住んでいる街は巨大セットで、妻も親友も近所の住人や同僚もすべて役者で、リアリティー番組だと知らないのは本人だけ。そんな「台本のないドラマ」が見れるということで、番組は世界中で大人気となっていた。しかし、あるとき、見世物にされるトゥルーマンを救いだそうとする女性が現れたことで彼はこの世界の異変に気づき、セットの外へ出ようとする。それを制作サイドが必死に妨害をする。当時、世界的に大流行していたリアリティー番組を痛烈に皮肉っているのだ。
例えば、トゥルーマンが外の世界を目指して、海にヨットで乗り出す。もちろん、これも巨大セットなので、プロデューサーは特殊効果で人工の嵐や雷を発生させる。トゥルーマンに諦めさせるためだ。しかし、海に放り出されても、トゥルーマンは諦めない。テレビの前で視聴者たちがその様子を固唾(かたず)を飲んで見守っている。
それを見たテレビ局の幹部たちは「世界中が見てる前で彼を死なせるのか?」と慌てふためくが、プロデューサーはこんな言葉は吐き捨てる。
「生まれたときと同じだ」
トゥルーマンはこのリアリティー番組の中で生まれた。だから、もしここで死んだとしても同じことだろというのだ。たくさんの視聴者を楽しませるという大義のもとには、たった1人の人生が狂おうと、命が消え去ろうとも大した問題ではない。出演者の人生を「神」のようにコントロールするテレビマンの「傲慢さ」と、リアリティー番組の「狂気」が垣間見えるセリフだ。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」 まさかの新説は本当か
アメリカやフランスの研究チームが、ちょっと信じられない研究結果を発表した。「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」というのだ。まさかの新説の裏に何があるのか。 - 人手不足は本当に「悪」なのか 騙され続ける日本人
人手不足が原因で倒産する企業が増えているようだ。東京商工リサーチのデータをみると、前年度から28.6%も増えて、過去最高を更新している。数字をみると、「人手不足=悪」のように感じるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。 - 「若いときにひどい目にあった」自慢のおじさんは、なぜヤバいのか
8月下旬、三菱電機の新入社員が自殺していたことが明らかに。教育主任から「死ね」と言われていことが分かって、この主任は書類送検されたという。それにしても、なぜ同じような問題が繰り返されるのか。背景にあるのは……。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 結局、Zoomは使っても大丈夫なのか?
コロナ禍でテレワークの需要が高まる中、一気に知名度を上げた「Zoom」。しかしユーザー数の急増に伴い、セキュリティの不備が次々と発覚している。Zoomを使っても構わないのか? 慎重になるべきか? 問題点と対策を整理した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.