コロナ禍で「アニメ冬の時代」は到来するか――混沌の2020年代、3シナリオで占う:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/4 ページ)
アニメ業界にも打撃を与えているコロナ禍。2020年代は果たして「アニメ冬の時代」となるのか。アニメ・映像報道の第一人者が3シナリオで分析。
TVアニメタイトル数、既に頭打ち
新型コロナに目を奪われ、見落とされている事実もある。国内アニメビジネスの天井感はむしろ新型コロナ以前から指摘されていることだ。
「アニメ産業レポート」をみると、テレビアニメの制作タイトル数は過去数年頭打ちだ。史上最高は16年の356タイトル、これが17年には340タイトル、18年には332タイトルに減少している。
10年代前半にアニメ制作が急増したのは、製作に積極的に資金を投じる新規参入者の存在があった。代表はゲームとアニメの連動を狙ったスマホアプリ企業、自国市場拡大を念頭に置いた中国マネーであった。
しかし業績好調が続いていたスマホアプリ企業は、海外パブリッシャーの参入による国内企業のシェア低下や開発費の高騰などで以前ほど資金は潤沢でなくなっている。中国では番組表現規制の強化や自国産アニメの成長で、これまでほど日本アニメに目を向けなくなっている。こうした状況は今後さらに進む可能性がある。
さらに「アニメ産業レポート」を見ると、日本アニメ市場は09年以降に市場拡大を続けているが、18年の伸び率は0.9%に過ぎないことが分かる。市場をけん引するのは、日本国外の日本アニメ市場で、国内市場のみでは過去最高は14年の1兆3096億円、そこから緩い減少傾向にある。成長イメージと裏腹に、市場は既にピークを過ぎている。特にこれまでアニメ産業を支えてきた「映像ソフト(DVD、Blu−ray)」「商品化」の縮小が止まらない。
伸びているのは、「映画」「ライブエンターテインメント」である。特に後者はファンイベントや展覧会、そしてライブコンサートなどが該当する。「モノ消費からコト消費」の動きはアニメ業界でも顕著で、特にこの「ライブエンターテインメント」は、業界の新たな収益手段とみられてきた。しかし「映画」と並んで新型コロナから大きな打撃を受けた。
それは若者向けアニメの宣伝・マーケティングにも及んでいる。ファンの熱狂を生み出し、そのエネルギーを横に広げていく、イベントやライブのキャパシティーを絞って長蛇の列や連日満員の会場などを創り出す。アニメ業界の得意としてきた人気拡散の手法だ。これが封じられる。
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