「外国人観光客はお断り」という“塩対応”が、よろしくない理由:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、観光産業が厳しい状況に置かれている。こうした事態を受けて、「日本人観光客を大切にしろ」という声が出ているが、筆者の窪田氏はこうした動きに懸念を示す。なぜかというと……。
日本の観光業を衰退させた原因
では、誰を手厚くもてなしていたのかというと言わずもがな、日本人観光客だ。
日本中の自治体は、大河ドラマの舞台になりましたとか、「くまモン」などの「ゆるキャラ」を競い合うようにつくって、必死に国内の観光客を呼び集めた。ご当地グルメや、絶景、家族で遊べるレジャースポットをアピールして、それが情報番組などで取り上げてもらえば、その週末は他県ナンバーがわっと押し寄せるというのが成功の方程式だった。
つまり、日本の観光は10年前まで、国内観光客の消費を喚起させる「Go Toキャンペーン」をずっと繰り返し続けていたような状況だったのだ。
では、その結果どうなったかというと皮肉なことに日本人観光客の誘致に力を入れれば入れるほど、観光産業は衰退の一途をたどってしまった。例えば、旅行消費額は06年に30.1兆円あったが、翌年「ゆるキャラブーム」が起きてから右肩下がりで減少して、11年までに22.4兆円まで落ち込んでいる。
なぜこんな現象が起きてしまうのか。
政治が悪い、社会が悪い、東日本大震災が悪い、とやろうと思えばスケープゴートはいくらでもひねり出せるが、客観的に数字をみれば、必死に呼びこんだ日本人観光客が思いのほか「観光地にカネを落とさない」ことが最大の原因なのは明らかだ。
例えば、10年の日本人国内旅行1人1回当たりの旅行単価をみると3万2355円。宿泊旅行だけでみると4万8412円となっている。これはバブル以降から現在もそれほど大きく変わっていない。19年の日本人国内旅行1人1回当たり旅行単価は3万7439円、宿泊旅行は5万5069円となっている。
「ま、そんなもんじゃないの?」と思うかもしれないが、日本を旅行する外国人観光客は1人当たり15万円程度の支出をしていることに比べると、これはかなり低い。多くの日本人にとって「観光」はなるべく安くあげるもの、という考えがビタッと定着しているのだ。
この「カネを落とさない観光客」を莫大な費用をかけて誘致し続けてきたことが、日本の観光業衰退の最大の原因だ。
ご存じのように、日本は猛烈なスピードで人口減少が始まっているので、日本人観光客も大きく増えることはない。アクティブシニアだなんだとトレンドでやや盛り上がる時期があっても全体的には減少傾向だ。実際、「旅行年報2018」(日本交通公社)内の「日本人の国内宿泊観光・レクリエーションにおける延べ旅行者数の推移および伸び率」というグラフを見れば、05年に2億2700万人回だったものが10年になると1億6900万人回と大幅に減少している。
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