「外国人観光客はお断り」という“塩対応”が、よろしくない理由:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、観光産業が厳しい状況に置かれている。こうした事態を受けて、「日本人観光客を大切にしろ」という声が出ているが、筆者の窪田氏はこうした動きに懸念を示す。なぜかというと……。
日本の観光業、再び斜陽産業に?
旅行者はじわじわと減っていく中で、1人当たり3〜5万円という単価がそれほど変わらなければ当然、全体の消費額はじわじわと減っていく。この流れは残念ながら、いくら「ゆるキャラブーム」を仕掛けても、ご当地グルメをPRしても食い止めることができないのだ。
つまり、日本人観光客だけにフォーカスを当てていた時代の観光は、「縮小する日本」を象徴するような、典型的な斜陽産業だったのである。そんな青息吐息の日本の観光業者が、12年ごろから徐々に息を吹き返していく。もうお分かりだろう。インバウンドによって客単価が増えたからだ。
訪日外国人の旅行支出は、12年の1人当たり旅行支出が11万1983円だったが、海外旅行によりカネを落とすヨーロッパやオーストラリアからの観光客が増えるにつれて増加。19年には15万458円にまでなっている。この「金払いのいい上客」の登場が、斜陽産業だった観光を徐々に蘇らせたことは、さまざまなデータが物語っている。
例えば、19年版「観光白書」によれば、宿泊業の従業員1人当たりの売上金額は、11年に826万円だったが、15年には940万円まで上がった。また、賃金も上がっている。厚労省の賃金構造基本統計によると、「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与その他特別給与額」の合計額は12年が320万7000円だったが、18年には355万9000円に上がった。
「カネを落とさない観光客」だけをもてなすことで低賃金重労働が常態化していたブラックな業界が、「カネを落とす観光客」が増えたことでようやく改善の兆しがでてきたのだ。それは裏を返せば、「コロナを機にインバウンドなんかより日本人観光客を大切にすべき」というのをもし本気でやってしまうと、ようやく成長基調にのった日本の観光業を10年前の斜陽産業に戻してしまうことなのだ。
というと、「いや、日本人観光客だって国や観光業側がいろいろ工夫をすればもっとカネを落とすようになる」と食い下がる人も多いかもしれないが、30年できなかったことがここにきて急にできると考えるのはさすがに無理がある。
そこに加えて忘れてはいけないのは、日本人のいう「客をもっと大切にしろ」ということは、「もっと安くもっといいサービス(商品)を提供しろ」と求めていることに等しいことだ。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」 まさかの新説は本当か
アメリカやフランスの研究チームが、ちょっと信じられない研究結果を発表した。「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」というのだ。まさかの新説の裏に何があるのか。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.