印鑑業務を止めるだけで日本人が休暇を1週間増やせる深い訳:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
東北大が押印廃止で事務をオンライン化。こうした生産性向上で筆者は「1週間分の休み」が増えると試算。欧米で取れる長期休暇が日本で取れない真因をそこに見る。
東北大学は6月1日、学内の各種手続きに必要となる押印を廃止し、全てオンラインに切り替える「オンライン事務化」を宣言した。同大学には1600人の事務系職員がいるが、以前からテレワーク環境の整備を進めており、今回のコロナ危機においては3割の出勤で業務を回すことができた。
押印見直しが「1週間分の休み」に
今後は、学内の申請手続き決済手続きについて原則として押印を廃止し、完全オンライン化を進めるとともに、電子決済システムの導入によって業務プロセスそのもののIT化も実現する。これによって100以上の学内業務について押印が不要となり、年間約8万時間の削減が可能になるとしている。
もし、この業務削減を本当に実現できた場合、生産性への効果は極めて大きい。削減できる8万時間が全て事務職員分の負荷とは限らないが、話を単純化すれば、1600人の事務職員全体で8万時間を削減できるので、1人あたり50時間という計算になる。1日8時間労働と仮定すれば、6日分の空き時間が確保できるので、全員が夏休みを1週間延長できる。
昔から欧米各国では多くの労働者が長い休暇を取っているが、日本では2〜3週間の休暇を取るなど夢のまた夢であった。日本人は、長期の休暇を取得できないことについて労働に対する価値観や文化の違いなどと、根拠のない説明ばかりを繰り返して自らを納得させてきた。しかし何のことはない、あまりにも業務にムダが多く、同じ付加価値を得るのに必要な労働量の絶対値が多すぎただけである。
単純化された予想とはいえ、押印を見直すだけで1週間の休みを取得できるのなら、業務全体のムダを見直せば日本の生産性は劇的に改善し、その分だけGDP(国内総生産)は大きく押し上げられるはずだ。
押印一つでこれだけの効果が見込めるということであれば、無駄な会議に相手の時間を奪うだけの無意味な訪問、あいまいな業務指示など社内のムダを一掃すれば、全体で1割の業務を削減するのはそれほど難しいことではないように思える。
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