社長、間違ってます! 米国で広がる「従業員アクティビズム」で会社は変わるか:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
日本では会社で主義主張を叫ぶことは歓迎されないが、今、米国を中心に「従業員アクティビズム」が広がりつつある。Facebookやニューヨーク・タイムズなどで、社会問題に絡む経営陣の判断に従業員が抗議。従業員自ら会社の存在意義を考え、変えることもできるのだ。
トランプ発言放置のFacebookも社内から不満
最近では、ニューヨーク・タイムズ紙でも起きている。いま全米で騒動になっているジョージ・フロイドさん死亡をめぐる抗議行動について、同紙は6月3日に共和党のトム・コットン上院議員の寄稿を掲載。その内容が米軍に国民の鎮圧に動くよう求める内容だったことで大きな批判になった。軍の動員については、トランプ大統領がツイートをして大ヒンシュクを買っていたこともある。
国民の権利であるデモ行為に対して軍で鎮圧するというのは、独裁国家のようなやり方であり、くしくも国民のデモを軍が武力行使で弾圧した中国の天安門事件すら彷彿(ほうふつ)とさせる。言うまでもなく、米国は長年天安門事件を批判し続けてきており、しかもその記念日(6月4日)に合わせたかのようなコットン上院議員の寄稿は、寄稿者のみならず、その掲載を決めた同紙幹部にも批判の矛先が向いた。
すると読者や記者らが反発。800人以上の同紙スタッフがこの掲載に反対する署名を提出した。結局、オピニオン編集長は責任をとって辞任することになった。
シリコンバレーでも同様の従業員アクティビズムは起きている。例えばFacebookだ。
発端は5月末のトランプ大統領のツイートだ。トランプは、米大統領選の投票を郵便によって行うかどうかの議論でフェイクニュースのようないい加減なツイートを投稿した。そのツイートに対して、Twitter社が「ファクトチェック」をすべきとの警告をトランプのツイートに初めて付けた。
これまでもトランプのツイートには怪しい情報が少なくなかった。陰謀論のような情報も投稿し、人々の怒りを煽るような口汚いツイートも多い。ただこれまで一度も、そのツイートに同社が警告をすることはなかった。さらに、その後にトランプがフロイドさん死亡をめぐる抗議行動について「略奪が始まると銃撃も始まる」と扇動的なツイートをしたことで、それもTwitter社から「暴力を賛美する」と警告を付けられた。
筆者は米Twitter社の関係者に話を聞いてみたが、リベラルな社風の同社では、トランプに対する不快感は強いという。さらに、以前から「警告せよ」「アカウントを停止しろ」との声も内部では出ていた。同社も警告のタイミングは探っていたようで、新型コロナによってこれまで以上に正確な情報が求められる中で、絶好のタイミングになったということらしい。
とにかく、Twitter社はこのように動いているのに、Facebookは同じトランプの発言をノータッチで放置。警告もないまま野放しにしたことで、社内で不満が膨れ上がった。ついには、テレワーク中の従業員らが、テレワークでの「ストライキ」(就業開始でログインしなければいけない時間にログインしない、会議に欠席する)を敢行。これまで政治的なコメントには干渉しないというポリシーを貫いてきたマーク・ザッカーバーグCEOに対して、対応するよう要請した。すると頑固なザッカーバーグも「考え直す」と折れる形になった。
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