1億6000万円の新薬「ゾルゲンスマ」に異例の苦言がついた理由:専門家のイロメガネ(1/4 ページ)
ノバルティス・ファーマが開発したゾルゲンスマという薬が承認された。薬の価格は国内最高の1億6000万円。たいへん高い薬だと、メディアでも話題になったが、5月には保険の適用が決まっている。しかし、この価格が妥当かどうかについては疑問も出ている。加えて、ゾルゲンスマの審査報告書では製薬会社に対して異例ともいえる「苦言」が書かれている。
2020年3月、ノバルティス ファーマ社(以下、ノバルティス)が開発したゾルゲンスマという薬が承認された。
ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)の治療薬で、対象は2歳未満の乳幼児だ。脊髄性筋萎縮症は遺伝性の病気で、徐々に筋力が低下していく。乳児型は症状が最も重く、ものを飲み込むことや、首を支えることができなくなり、人工呼吸機を使わない場合、幼くして死亡する。
薬の価格は国内最高の1億6000万円。たいへん高い薬だと、メディアでも話題になったが、5月には保険の適用が決まっている。他の高額薬と比べても、ゾルゲンスマの次に高い薬は白血病の薬キムリアで3400万円、ゾルゲンスマの類似薬であるスピンラザが約950万円と続く。ゾルゲンスマが突出して高いことが分かる。
この価格が妥当かどうかについては疑問も出ている。加えて、ゾルゲンスマの審査報告書では製薬会社に対して異例ともいえる「苦言」が書かれている(審査報告書:医薬品の承認申請に対し、審査の内容と見解をまとめた資料)。
ゾルゲンスマはなぜここまで高いのか? 苦言が呈された背景にはどんな事情があるのか? 医薬品開発を支援する企業で長年働いてきた筆者の経験から考えてみたい。
高額な値付けの根拠
そもそも薬の価格はどのように決めるのか。この決め方には2種類ある。同様の効果がある薬を基準にする「類似薬比較方式」と、原価から計算する「原価計算方式」だ。これらから出された価格から、薬ごとの事情を考慮し各種金額が上乗せされる。最後に外国での価格と比べ、もし差が大きいようであれば調整する。
ゾルゲンスマでは、類似薬のスピンラザを基準に価格が決められた。何度も投与するスピンラザと同じくらいの効果が、ゾルゲンスマではたった1回の投与で期待できる。ゾルゲンスマを使うことで、従来必要だったスピンラザの投与が要らなくなる期間が2年弱、薬の数にして11本分、という根拠で、スピンラザの価格950万円✕11=1億円と算出されたのだ。
このように、ゾルゲンスマが高くなった理由の一つはスピンラザが元々高かったからともいえる。
関連記事
- 新型コロナ薬のレムデシビルは、なぜ米中で治験の結果が正反対だったのか?
新型コロナウイルス治療薬の登場が期待される中、5月7日に抗ウイルス薬のレムデシビルが日本で「特例承認」された。しかし米中でレムデシビルの治験が行われたが、結果が効く、効かないで正反対だったと報じられている。レムデシビルは新型コロナに効くのか、なぜ米中の治験で異なる結果が出たのか。 - 期待のアビガンが簡単に処方できない理由
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。しかし、アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える薬だ。アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクががその理由の一つだ。 - コロナウィルスで打撃を被るのは「製薬会社」となり得る意外なワケ
不謹慎だと思われる方もいるかもしれないが、株式市場では、早速「コロナウィルス関連株」の物色が始まっている。特に、今後需要が見込まれるマスクや医療廃棄物を手がける会社の株価は、ここ2週間で大きく増加した。 - あなたの会社がZoomではなくTeamsを使っている理由
「Zoom飲み」といった言葉をSNSでも度々見かけるほど、ごく普通に使われる、ビデオ会議ツールのスタンダードになってきたZoom。ところがついに自社にもWeb会議ツールが導入されると思ったら、ZoomではなくSkypeやTeamsだった――。その理由には、マイクロソフトのビジネスモデル戦略があった。 - 元グラビアアイドルが語る、SNSの有名税と誹謗中傷 テラスハウス問題の本質とは
13年間グラビアアイドルとして活動してきた間、活躍するために、そして生き残るために、ネットをいかに活用するかは最も重要だった。「嫌ならSNSを辞めればいい」というものがある。真正面から答えるなら「簡単に言わないで欲しい」の一言だ。芸能活動でSNSは命といっても過言ではないからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.