1億6000万円の新薬「ゾルゲンスマ」に異例の苦言がついた理由:専門家のイロメガネ(3/4 ページ)
ノバルティス・ファーマが開発したゾルゲンスマという薬が承認された。薬の価格は国内最高の1億6000万円。たいへん高い薬だと、メディアでも話題になったが、5月には保険の適用が決まっている。しかし、この価格が妥当かどうかについては疑問も出ている。加えて、ゾルゲンスマの審査報告書では製薬会社に対して異例ともいえる「苦言」が書かれている。
金額が10%上乗せされる「先駆け新薬」
しかし、ゾルゲンスマの値段には疑義も出ている。ゾルゲンスマは、承認審査を優先させる「先駆け新薬」に定められており、さらに10%上乗せした値段になっているのだ。
先駆け新薬の制度は、深刻な病気の患者が少しでも早く最先端の治療を受けられるように承認を優先するもので、指定されれば10%値段が上乗せされる。それだけに指定には厳しい条件がある。その薬が新しいメカニズムでの効き方で画期的であること、重い病気の薬であること、極めて良く効く薬と判断できること、世界に先駆けて日本でいち早く承認申請する意思、これら全てが必要だ。
つまり、社会的意義がとても高いので、なるべく早く開発すること。そのために金額を10%上乗せします、ということだ。
20年4月現在、先駆け新薬の対象になった薬は全部で20種類ある。そのうち8種類が承認され、うち申請時期が公表されている7種類は、全て6カ月程度で承認されている。しかし、ゾルゲンスマは承認まで1年4カ月もかかった。
「先駆け新薬」でありながら承認スケジュールが遅れた。それにもかかわらず、10%の上乗せはされる。一度指定されれば、その後のプロセスが遅れたとしても10%上乗せ価格になることは妥当なのか。「たかが10%」といっても、元の値段が1億円と高いため1000万円もの上乗せになる。
この件では中央社会保険医療協議会中医協総会でも疑問の声が挙がったという。20年5月13日には厚生労働省もゾルゲンスマの価格を見直すとした。また、薬の値段を決める際の審議は非公開であり、議事録も作成されないとのことで、全国保険医団体連合会は改善要望を出している。承認までに時間がかかったことについて、ゾルゲンスマの審査報告書では次のよう記載されている。
「機構は、審査期間短縮のために迅速な対応をしたにも関わらず、申請者の対応が原因で、スケジュールが大幅に遅延した」
「事態は極めて異例」
「申請者の認識が極めて不十分」
(それぞれ、ゾルゲンスマ「審査報告書」より抜粋)
ここでの「機構」とは医薬品の承認を行う医薬品医療機器総合機構のこと、「申請者」とは製薬会社であるノバルティスのことだ。筆者は仕事で多くの審査報告書を読んできた。しかし、審査報告書においてこのような「苦言」が書かれるのは珍しいことであり、筆者も驚いた。
関連記事
- 新型コロナ薬のレムデシビルは、なぜ米中で治験の結果が正反対だったのか?
新型コロナウイルス治療薬の登場が期待される中、5月7日に抗ウイルス薬のレムデシビルが日本で「特例承認」された。しかし米中でレムデシビルの治験が行われたが、結果が効く、効かないで正反対だったと報じられている。レムデシビルは新型コロナに効くのか、なぜ米中の治験で異なる結果が出たのか。 - 期待のアビガンが簡単に処方できない理由
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。しかし、アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える薬だ。アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクががその理由の一つだ。 - コロナウィルスで打撃を被るのは「製薬会社」となり得る意外なワケ
不謹慎だと思われる方もいるかもしれないが、株式市場では、早速「コロナウィルス関連株」の物色が始まっている。特に、今後需要が見込まれるマスクや医療廃棄物を手がける会社の株価は、ここ2週間で大きく増加した。 - あなたの会社がZoomではなくTeamsを使っている理由
「Zoom飲み」といった言葉をSNSでも度々見かけるほど、ごく普通に使われる、ビデオ会議ツールのスタンダードになってきたZoom。ところがついに自社にもWeb会議ツールが導入されると思ったら、ZoomではなくSkypeやTeamsだった――。その理由には、マイクロソフトのビジネスモデル戦略があった。 - 元グラビアアイドルが語る、SNSの有名税と誹謗中傷 テラスハウス問題の本質とは
13年間グラビアアイドルとして活動してきた間、活躍するために、そして生き残るために、ネットをいかに活用するかは最も重要だった。「嫌ならSNSを辞めればいい」というものがある。真正面から答えるなら「簡単に言わないで欲しい」の一言だ。芸能活動でSNSは命といっても過言ではないからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.