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コロナが浮かび上がらせた論点、「ベーシックインカム導入」が難しい真の事情 ――企業は収益力を強化せよ中島厚志がアフターコロナを見通す【後編】(2/3 ページ)

経済産業研究所前理事長で現在、新潟県立大学の中島厚志教授へのインタビュー。後編の今回は、中島教授が長年滞在したフランスの状況を中心に、ベーシックインカムや企業の収益性など、世界の動きを踏まえながら日本はどのような針路を取るべきかを聞いた。

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ベーシックインカム導入には年間60兆円かかる

――コロナの影響で職を失い生活に困窮する人が増える中、政府が国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給する「ベーシックインカム」を導入すべきだという意見もありましたが、どのように考えていますか?

 ベーシックインカム導入には基本的に賛成です。ただし……です。仮に毎月5万円を1億人に支給すると、1カ月あたり5兆円が必要となります。それを12カ月ですから1年間で60兆円が必要ですね。年間の国家予算が約100兆円なので、合わせて160兆円となりますが、本当に捻出できるのか、という話になります。

 国民の覚悟が問われているかもしれません。「消費税増税はイヤ。社会保険料の増額もだめ。でも、国民皆保険は維持して、ベーシックインカムも導入する」。それは財源を考えれば無理な話です。

――北欧諸国では社会保障が充実していますよね。

 いきなりベーシックインカム導入は難しいとしても最初のステップとしてスウェーデン型の福祉国家を目指すということは考えられます。スウェーデンは重税ですが、その代わりに学校は無料で、奨学金ももらえます。奨学金は実質生活費になりますから、生活はできます。(新型コロナウイルスの影響によって)アルバイトすらできず生活に苦しみ退学する学生が報じられた日本とは大きな違いがありますね。

 ただこのように国民の生活費を支える財源がどこから出ているかというと、過半を企業が負担しているのです。国民の社会保障費の多くをまかなっているのは、実は企業なのです。だからスウェーデンという国は赤字企業を助けません。国を代表する中核企業のサーブ・オートモービルもボルボ・グループも中国企業に支配権が移りました。

 国は、いくら雇用していると言っても企業は助けず国民を助けます。ですから、国民は失業するのですが、国が再就職のための職業教育や再就職支援をする形なのです。そのような仕組みの上での“福祉国家”なのです。

 内閣府はかつてスウェーデンと日本の国民負担の還元率を計算していますが、スウェーデンの方が日本より多く還元されており、重税ではあるものの、実質の負担は少ないとの結果を示しています。日本人もどの方向性に向かうべきか考えたほうがいいでしょう。

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スウェーデンは赤字企業は助けない。サーブ・オートモービルもボルボ・グループも中国企業に支配権が移った(東京・北青山の「ボルボ スタジオ 青山」、ITmedia ビジネスオンライン撮影)

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