在宅勤務が進んでも、月3億円の家賃でも「オフィスは必要」 GMO熊谷社長の哲学:渋谷の一等地(1/3 ページ)
オフィスは武器だ──。テレワークの普及でオフィス需要の低迷のみならず、場合によっては不要論すら叫ばれるなか、GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は必要性を説く。その理由は。
オフィスは武器だ──。ウィズ/アフターコロナの時代における企業活動として、在宅勤務の重要性に注目が集まる今、逆張り路線といえる考え方のもと、オフィスの必要姓を訴える経営者がいる。GMOインターネットグループ代表取締役会長兼社長・グループ代表の熊谷正寿氏だ。テレワークの普及でオフィス需要の低迷のみならず、場合によっては不要論すら叫ばれるなか、オフィスの必要姓を声高に喧伝(けんでん)する理由はどこにあるのか。
GMOといえば、日本国内でコロナへの危機感がそれほど高くなかった1月27日から「感染拡大防止のため」として、在宅勤務体制にいち早く移行したことで有名だ。4月に入ると、捺印(なついん)手続きのために出社しなければならない社員(同社では「パートナー」と表現)が存在することを憂慮した熊谷氏は、「脱はんこ」を宣言した。企業としてのウィズコロナへの適応力の鋭さは、多くのメディアに取り上げられ、一種のモデルケースと目された感もある。
そんなGMOが今なぜ、オフィスにこだわるのか。同社は、渋谷という一等地のセルリアンタワーに第1本社、渋谷フクラス(東急プラザ渋谷)に第2本社と、いかにも家賃の高そうなビルにオフィスを構えている。バリバリのIT企業である同社なら、在宅勤務に対するハードルは高くないはずだ。固定費を削減するという意味でもオフィスにこだわる必要はないのではないか。しかも、感染症との共存を考えると「職場クラスター」というリスクを背負い込むことになる。
渋谷の本社だけで、月に約3億円の家賃 「力の源泉となる」
それでも熊谷氏は「象徴としてのオフィスは必要だ。信用力、ブランド力、ライバルとの差別化、求人における価値など、企業を永続的に存続させるためには、一等地のビルにオフィスを構えていることが長期的に見て、力の源泉となる」と言い切る。1月末から約4カ月間続いた在宅勤務体制で、業務が特段滞ることなくむしろ好調に転じたことも、オフィスの存在が寄与しているという。
以前から、オフィスというリアルな場所でのフェース・トゥ・フェースでのコミュニケーションの蓄積(熊谷氏は「コミュニケーション貯金」と表現)があったからこそ、突然の在宅勤務体制への移行でも、業務がスムーズに遂行できたという。同グループの2020年1〜3月の四半期決算は、売上高が536億円と、過去最高の業績を達成している。
在宅期間の約4カ月間は、約1割程度の社員しか出社しておらず、オフィスは閑散とした状態だったそうだ。在宅勤務でも業績が好調なのだから、経営者としてオフィスに対する考え方を変えてもよさそうな気もするが、熊谷氏は「渋谷エリアの第1本社と第2本社だけで、月に約3億円の家賃を支払っている。スタートアップの中には、オフィスを解約した企業があるという話も聞くし、在宅勤務を続けるなかで、そこまでのオフィスが必要なのか、という意見をいただくこともある。だが、オフィスに対する考えは変わらない」と明言する。
緊急事態宣言解除後の6月1日以降、同グループでは「部署や職種により異なるが、在宅と出社のハイブリッド勤務体制で、週に1〜3日の在宅勤務を推奨し、現時点では、約半数のパートナー(社員)が出社している状態」(GMOインターネット取締役 グループコミュニケーション部長の福井敦子氏)だ。ハイブリッド勤務体制で生まれたスペースの余裕を社内の感染症対策に生かしている。具体的には、ソーシャルディスタンシングを確保したフリーアドレスの導入や会議室で着座間隔を確保するなどの三密防止に努めている。
「未来家賃」を社員と株主に還元
くどいようだが、このような勤務体制になれば、経営者の中には、固定費削減のためにオフィスの減床を検討する者も出てきそうだ。しかし熊谷氏は、現状を維持したままでオフィスの削減は考えていないという。それどころか、今のハイブリッド勤務体制を利用して「未来家賃」という考え方を唱え、社員や株主への利益還元につなげることを公言している。
未来家賃というのは、次のような考え方だ。
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