「公共のデジタル通貨」 ビットコインでもCBDCでもない挑戦:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(2/5 ページ)
ビットコインの「政府から独立したマネー」という挑戦は、通貨とは何か? という根本的な問いを世に投げかけた。民間のFacebookが進めるLibraをはじめ、地域デジタル通貨の提案、さらには法定通貨自体のデジタル化(CBDC)まで広がりを見せている。
通貨制度は誰のものなのか
オカシオ=コルテス議員の問いかけは、図らずも現行の通貨制度への問いかけとなっていた。つまり、通貨制度はもともと民主的ではない。
例えば日本銀行のホームページには、「金融政策の独立性」について次のような説明が載っている。
「各国の歴史をみると、中央銀行には緩和的な金融政策運営を求める圧力がかかりやすいことが示されています。物価の安定が確保されなければ、経済全体が機能不全に陥ることにも繋がりかねません。こうした事態を避けるためには、金融政策運営を、政府から独立した中央銀行の中立的・専門的な判断に任せるのが適当であるとの考え方が、グローバルにみても支配的になっています」
民衆の声に左右されず、中立的・自主的に通貨制度を運用するのが中央銀行の本来の業務ということだ。
ただし、通貨制度の実態は必ずしも建前通りではない。現在、米国や日本を含む多くの主要国が財政ファイナンスに手を出している。政府発行の国債を中央銀行が引き受ける形で、実質的に政府と中央銀行が手を組んで「お金の刷り増し」を行っているのである。財政ファイナンスが行きすぎると通貨価値が減りハイパーインフレになる――と警告する論調をよく目にする。とはいえ、財政フィナンスを積極的に行っている日本では、むしろデフレが長期化して苦しんでいるのが現状だ。
政府の要望を受けた通貨発行を単なる「急場しのぎ」と捉えず、適度な財政ファイナンスは経済システムに必要な要素と見る考え方もある。これは最近注目されているMMT(現代貨幣理論)の基本的アイデアである。MMTに対する主流派経済学の立場からの異論は多い。中でも大きな問題はMMTは数理モデルが弱く、「適度な財政支出の度合い」を定量的に導けないことだ。
ただし、MMTに含まれる「お金」に関する考え方は面白い。1つは「政府の債務は国民の資産である」という会計的事実の指摘。もう1つは通貨制度の運営者は「政府+中央銀行」であるとする考え方だ。
中央銀行にせよ、「政府+中央銀行」のユニットにせよ、通貨制度は民主的手続きにより運営されているとはいえない。通貨は誰のものかといえば、実態として「政府+中央銀行」のものである。通貨制度の中で、一人一人の個人や国民の存在感は乏しい。通貨制度への異議申し立ての正規ルートは、どうやら用意されていないようだ。
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