ただの対話スキルではない、「ファシリテーション」の本質とは:組織を変えるファシリテーション 第1回(2/2 ページ)
コラボレーションワークを促進させるマネジメントスキルの1つ「ファシリテーション」。たんなる「対話スキル」を超えた、マネジメント層にこそ求められる「組織のファシリテーション」力とは何か。
組織を「ファシリテーション」する
マネジメント層が行うべき「組織のファシリテーション」とは、具体的にどのようなアクションを行うことを指し、そしてその先に見据える「あるべき姿」とはどのようなものなのでしょうか。ここからそれぞれを解説していきます。
1、事業方針のインプット収集を目的とした「問い」を継続的に立てる
「組織のファシリテーション」として、マネジメント層が行うべきアクションの1つ目は、事業の全体方針につながるインプットを、継続的な「問い」によって収集するということです。
事業方針を策定し、決定することは、マネジメント層の主たる役割です。そして良質な意思決定をするためには、それを策定するためのインプット、特に現場からのインプットは豊富にある方が良いに決まっています。しかし、それを理解してはいるものの、いつもクローズドに決めたがったり、(必要もないのに)自由に使える外部コンサルを入れたがるマネジメント層がかなり多いという声をよく聞きます。
その背景には「下からあれこれ言われたくない」「自分の領域を侵されたくない」という人間的な心理があるのかもしれません。そんなインサイトを無視して、「だからダメで、現場の声にもっと耳を傾けましょう」などという、タテマエ論を展開するつもりはありません。もっと人間的な視点に着目すべきと考えます。
現場からのインプットを遠ざけたくなる心理を招く理由は、「インプットのさせ方」に問題があるからです。例えば、部下に「事業方針について、何かアイデアを出してくれ」とか、「作成したこの方針について、気になることがあれば指摘してくれ」というような聞き方をすると、自分の思いもよらない範囲のインプットが部下から提示され、それに気付けなかった「自分の無能さ」を非難されているように感じてしまいます。人間なんてそんなものです。部下側は良かれと思っているにもかかわらずです。
そういう、主導権が向こう側に移るように見えてしまう、一時的/受け身的な方法ではなく、マネジメント層が整理したイシューごとに、日頃から具体的な「問い」をガンガン立てていくべきでしょう。例えば、「新しい事業アイデアを考えてくれ」ではなく、「社としての事業不安定リスクを解消する、新しい事業領域として考えられるものは何だろうか?」という問いを、方針策定のタイミングだけではなく、日常から先手先手でどんどん部下に考えさせるのです(ここでは、くれぐれも立派なレポートを作成させることなどないように。頭を使って、見解を出すことのみに時間を使わせるべきです)。
それならば、あくまで主導権はこちらが握り続けている実感が持て、自分たちではどうしようもなくなったから、下に助けを求めたような印象を与えたり感じたりすることもありません。そして、そのような「問い」を立てられた部下としても、マネジメント層からの期待を感じるのではないでしょうか。
2、管掌する各部門の取り組みについて、その要点を考えさせる「問い」を立てる
続いて、「組織のファシリテーション」の2つ目のアクションは、自分が管掌している各部門のリーダーに対して、それぞれの取り組みを成功裏に進めるための「要点」を、問いによって考えさせるということです。
自分がリードし、管掌している各部門についての取り組み方針が決まった。後は部下に任せて自分はいったんお役御免……と引っ込んでしまうのはまだ早いです。ここでマネジメント層が行うべきは、各部門のリーダーに対して、各事業の練度を高めるための「問い」を立てることです。
継続的に同じ事業に取り組んでいると、今の状態を当たり前に感じて問題意識をいつしか感じなくなり、新しいエッセンスが入らないまま停滞してしまう、という状況が往々にしてあります。言わずもがな、停滞は衰退を意味します。
ですので、特に取組みを開始する段階(もちろん途中の段階でも)において、客観的にそれまでの捉え方を見直すための「問い」をマネジメント層から発信し、新しいエッセンスを追加するための気付きをもたらすべきでしょう。このアクションは、前述の(1)と違って、部下に「内省」を促すためのものであり、コーチング的な意味合いに近いといえます。
それでは、気付きをもたらす「問い」をどのように立てればよいか、非常にシンプルではありますが、最低限繰り出すべき「問い」の例をご紹介します。
- KSF(重要成功要因)は何か/何を押さえれば勝てるか
――そして、そのために何に取り組むべきか?
- 成功の想定阻害要因とは何か
――そして、それを解決するために何に取り組むべきか?
- 進行上のマイルストーンはどこか
――そして、そこで何が達成できていないといけないか?
部下のパフォーマンスが心配だったりすると、マネジメント層として、具体的にあれやこれやと口を出したくなる、聞きたくなる気持ちは分かりますが、いったんこれくらいの粒度の問いで考えさせるのがいいでしょう。シンプルですが、これをとにかく毎回行うこと。そうすると、自分から問いを立てなくても、自然にそれらを意識して考えるようになってきます。
そしてやらせてみて、もし進捗が好ましい状態でなければ、ここでも「問い」を立てて内省的に改善策を引き出してみます。結果を見て叱責することも時として重要ですが、それだけでは先に進みません。まずは問題の所在を明らかにし、そこから改善策を考えさせましょう。そのフィードバックの方法について、ここで述べる必要はないでしょう。
次回は、引き続き「組織をファシリテーションする」方法を幾つか紹介し、そしてその先に見据える「あるべき組織の姿」について解説をしていきます。
著者プロフィール:楠本 和矢(くすもとかずや)
HR Design Lab. 代表 兼 博報堂コンサルティング 執行役員。「マーケティングとHR領域の融合」をテーマに、現場での実践に基づいたさまざまなHRソリューションを開発提供している。
現在は、組織の創発力強化・生産性向上を目的とした取組みに注力。また博報堂グループ内での実績No.1ビジネス研修講師でもある。直近3年で、300回以上の企業内研修やセミナー、講演等を実施し、平均満足度は98%を超える。「一人一人の知恵や経験が存分に引き出され活用されている社会をつくること」が自身のミッション。
主な著書に「会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション」(すばる舎/2019年)、「人と組織を効果的に動かす KPIマネジメント」(すばる舎/2017年)、「サービス・ブランディング」(ダイヤモンド社/共著:2008年)がある。2020年11月に「TRIGGER 人を動かす行動経済学(仮称)」を上梓予定。Twitterアカウントは「@kzyksmt」。
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