Facebookのヘイト対策に「大穴」 〜ザッカーバーグの矛盾とは〜:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(1/5 ページ)
米国で、Facebookにとって手痛い内容の報告書が公表された。報告書は、この2020年11月に米大統領選挙が控えている中で、差別問題やヘイトスピーチに対するFacebookの取り組みがまだ不十分であり、しかも「大穴」が空いていることを指摘している。
米国で、Facebookにとって手痛い内容の報告書が公表された。報告書は、2020年11月に米大統領選挙が控えている中で、差別問題やヘイトスピーチに対するFacebookの取り組みがまだ不十分であり、しかも「大穴」が空いていることを指摘している。Facebookは、多くの不適切な書き込みを削除する努力を続ける一方で、大きな影響力を持つトランプ大統領の不適切発言を放置しているのだ。
それに先立ち、大手広告主がFacebookから広告を引き上げる出来事も起きた。ヘイトスピーチと広告が並んで表示されることを嫌ったのだ。逆風の中、マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は今のところ考えを変えるつもりはないようだ。
差別撤廃に取り組む「公民権監査」で厳しい評価
20年7月8日、Facebookへの公民権監査の最終報告書が公開された(PDF)。ここでいう公民権(Civil Rights)とは、短く言えば「差別されない権利」だ。米国で1950年代半ばから60年代半ばにかけて起きたアフリカ系アメリカ人公民権運動を受け、差別撤廃のための各種法律が整備されて確立した概念である。よく耳にする言葉である「人権(Human Rights)」が主に国際条約で定められているのに対して、公民権は米国の国内法で定められている。
Facebookへの公民権監査では、公民権専門の弁護士らが2年にわたり「Facebookが黒人やその他のマイノリティーへの『差別の撤廃』にきちんと取り組んでいるかどうか」を調べ、時には助言した。監査の過程では、FacebookのCOO(最高執行責任者)であるシェリル・サンドバーグ氏が担当役員となった。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏も監査に参加した。米国の多くの公民権団体(差別撤廃に取り組む団体)とFacebook幹部の対話も行われた。報告書は、このようなFacebookの経営トップを巻き込んだ取り組みの成果を記している。
報告書の論調は、Facebookの努力をある程度評価しているものの、結論は厳しいものとなった。報告書は次のように記している。「2年間の監査期間を通して進歩はあった」ものの、差別問題への対策は「受け身であり、断片的である」としている。特に、Facebookが「政治家の発言のファクトチェックをしない」と決定した点、またトランプ大統領の不適切発言を放置している点を「公民権にとって重大な挫折」と厳しく批判した。
報告書が厳しいトーンで書かれた背景には、この20年11月に迫った米大統領選挙がある。巨大なユーザー数を抱えるFacebook上の書き込みは、選挙に対して大きな影響を持つからだ。
報告書では、Facebookの取り組みについても触れている。脅かしやデマによりマイノリティーの投票を妨害する書き込みに対して、Facebookはポリシーを整備し、監視体制を強化した。不適切発言に対しては24時間体制で監視を実施する。例えば20年3月から5月にかけて、米国内のFacebookとInstagramのコンテンツ10万件以上をポリシー違反として削除したとしている。
新型コロナウイルス対策のため、Facebook社員が自宅から監視ツールを使える環境も整備した。それに加えてFacebook社外の公民権団体に対して監視ツールを提供し、団体が不適切発言を見つけるとFacebookに連絡して削除などの措置を取る仕組みを構築した。自社内だけでなく、「差別される側」の立場の人間を含む団体をコンテンツの監視に参加させている訳である。
ここまでの努力をしても、それを帳消しにするようなトランプ大統領の発言とは、どのようなものだったのか。
関連記事
- 木村花さん事件とトランプ対Twitterと「遅いSNS」
(1) 世界の国々はSNS(ソーシャルネットワーク)規制で悩んでいる。(2) SNS規制には副作用があり、複数の視点から考える必要がある。(3) 英国の提言の中で「SNSで議論を遅くする仕組みを作れ」という意表を突く指摘がある。複雑だが、重要な話だ。今こそSNS規制を考える時だ。 - インドのTikTok禁止と表現の自由
インド政府が、動画投稿アプリTikTokをはじめ59種類の中国製スマートフォンアプリの利用を禁じた。インド政府の命令に従い、AppleとGoogleはスマートフォン向けアプリストアから問題とされたアプリを取り下げた。TikTokもサービス提供を中止した。この事件は、単なる2国間の対立というだけでは収まらない問題を含んでいる。インターネット上の人権――表現の自由――という新しい概念と、国家の利害とが衝突しているのだ。 - 「顔認識技術を禁止せよ」 黒人差別を受けハイテク大手の対応は?
米国で顔認識技術への批判が強まっている。IBM、Amazon、Microsoftが相次いで、警察など法執行機関への顔認識技術の提供を中止すると発表した。以前から顔認識技術は「人種差別、性差別を助長する」との批判があった。事件を機に大手テクノロジー企業が顔認識技術の提供中止に追い込まれた形だ。 - 「暗号通貨」の看板を下ろしたLibraの勝算
国際的な送金・決済ネットワークを目指すLibra協会は、2020年4月に大きなピボット(方針転換)を行った。「暗号通貨」(cryptocurrency)の看板を下ろし、「決済システム」(payment system)となったのである。ローンチはまだ先のことだが、Libraはゆっくり成長して国際的な決済ネットワークの世界のゲームチェンジャーになるかもしれない。 - それでも接触確認アプリを入れるべき3つの理由
不具合の指摘や動作に関する怪情報も飛び交っているが、それでも接触確認アプリを入れてほしい。それは(1)大勢が使うことでアプリの有用性が増し、(2) 個人のプライバシー侵害などのリスクは考えられる限りで最小限であり、(3)このやり方がうまくいかない場合、個人のプライバシーを侵害する施策が打ち出される懸念があるからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.