トヨタの大人気ない新兵器 ヤリスクロス:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
ついこの間、ハリアーを1カ月で4万5000台も売り、RAV4も好調。PHVモデルに至っては受注中止になるほどのトヨタが、またもやSUVの売れ筋をぶっ放して来た。
さて、次はせっかくのサーキットなので限界域の挙動の話だ。これは別に公道でレースまがいの運転をしろという話ではない。例えば高速道路で逆走車に出くわしたようなケースで、緊急回避時の挙動がどの程度安全に仕立てられているかの話だと思って読んでほしい。
まず、ストレートの途中でダブルレーンチェンジ。速度は時速100キロ弱。急ブレーキを踏みながら一車線分右にクルマを振って、再度元のレーンに戻る。拍子抜けするくらい何も起きない。これなら誰でもできる。
次に、強くブレーキを掛けてフロントタイヤをロックに近い状態に持ち込んで、ハンドルを切っても当然思ったようには曲がらない。本当はロックさせたいのだが、今のクルマでは電制が介入してロックできない。
ここからブレーキを緩めていった時の、フロントタイヤのグリップの回復具合をみた。ある速度から急にフロントのグリップが回復して横っ飛びにノーズが横へ向かうタイプは、ドライバーを選ぶ。ヤリスクロスはこの動きが穏やかで制御しやすい。穏やかに回復し、そこから再度ブレーキでアンダーを出しても落ち着いている。
旋回Gの高い逆カントのコーナーでアクセルを抜いたり、ブレーキを舐(な)めたりすれば、当然リヤが滑り出す。この動きも滑らかで一貫している。チーフエンジニアは、グリップの急激な回復で横転することが万が一にもないように、滑らせながら耐えるように仕立てたという。
その主役は電子制御技術のVSC(横滑り制御機能)で、4つのタイヤそれぞれに適宜制動を掛けてボディーの動きをコントロールしているのだが、陰の主役はボディ剛性だ。ボディとサスペンションが動いてしまってはタイヤの接地圧が頻繁に変わり、VSCが緻密に制御できない。
試乗途中で雨が土砂降りになってくると、さしものVSCも滑らかな制御ができなくなり、唐突な挙動が混じりはじめた。路面の水膜の厚さが局所的に変わるこういう状況では、ボディ剛性が低かった時代と同じようにVSCの効力が落ちてしまうのだ。雨の日はとにかくスピードダウンを心がけるべき。それはヤリスクロスに限った話ではない。
関連記事
- ヤリスのトレードオフから考える、コンパクトカーのパッケージ論
ヤリスは高評価だが、満点ではない。悪いところはいろいろとあるが、それはパッケージの中でのトレードオフ、つまり何を重視してスペースを配分するかの結果だ。ヒューマンインタフェースから、なぜAピラーが倒れているかまで、コンパクトカーのパッケージに付いて回るトレードオフを、ヤリスを例に考えてみよう。 - ヤリスの何がどう良いのか?
ヤリスの試乗をしてきた。1.5リッターのガソリンモデルに約300キロ、ハイブリッド(HV)に約520キロ。ちなみに両車の燃費は、それぞれ19.1キロと33.2キロだ。特にHVは、よっぽど非常識な運転をしない限り、25キロを下回ることは難しい感じ。しかし、ヤリスのすごさは燃費ではなく、ドライバーが意図した通りの挙動が引き出せることにある。 - ヤリスとトヨタのとんでもない総合力
これまで、Bセグメントで何を買うかと聞かれたら、マツダ・デミオ(Mazda2)かスズキ・スイフトと答えてきたし、正直なところそれ以外は多少の差はあれど「止めておいたら?」という水準だった。しかしその中でもトヨタはどん尻を争う体たらくだったのだ。しかし、「もっといいクルマ」の掛け声の下、心を入れ替えたトヨタが本気で作ったTNGAになったヤリスは、出来のレベルが別物だ。 - ヤリスの向こうに見える福祉車両新時代
還暦もそう遠くない筆者の回りでは、いまや最大関心事が親の介護だ。生活からクルマ消えた場合、高齢者はクルマのない新たな生活パターンを構築することができない。そこで活躍するのが、介護車両だ。トヨタは、ウェルキャブシリーズと名付けた介護車両のシリーズをラインアップしていた。そしてTNGA以降、介護車両へのコンバートに必要な構造要素はクルマの基礎設計に織り込まれている。 - ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編)
今回のGRヤリスでも、トヨタはまた面白いことを言い出した。従来の競技車両は、市販車がまず初めにあり、それをレース用に改造して作られてきた。しかし今回のヤリスの開発は、始めにラリーで勝つためにどうするかを設定し、そこから市販車の開発が進められていったというのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.