見通しが甘かった大戸屋、買収どころではないコロワイド 「大戸屋紛争2.0」を読み解く:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)
コロワイドが大戸屋に“超攻撃的買収”を仕掛けている。敵対的な買収はそもそも成功するのか。買収された後、大戸屋にはどんな運命が待ち受けているのか。
不振の原因が見えていないのはどちらか
両社ともに赤字の決算となっている。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の本格的影響が出る4〜5月の前の段階で赤字に転落した。そもそもコロナの前から不振だったのだ。
6月の既存店売上高も、コロワイドが前年同月比71.3%、大戸屋が同70.0%と共に3割減であり、似たり寄ったりの回復途上にある。
要は、不振のコロワイドが、不振の大戸屋を買ったらV字回復できるのかということだ。普通に考えれば疑問視されるM&Aだ。今のままの大戸屋ならば業績回復が困難なので、大株主として改善を要求したいというコロワイドの主張は筋が通っている。コロワイドの言い分は、仕入れを共通化すればコストを削減できるし、セントラルキッチンで料理をつくれば店舗の人員も減らせて利益が出るというものだ。一見合理的に思えるが、それを全社的に貫いて赤字になった現実がある。
コロワイドは、「不振の会社はその原因が見えていない」と大戸屋を批判しているが、それはそっくりそのままコロワイドにも当てはまる。
大戸屋の株主は、大戸屋ファンを核とする個人株主が65%を占める。個人株主だって業績を厳しくチェックする。6月25日に開催された大戸屋株主総会の前に、コロワイドは回答すれば3000円相当の食事券がもらえるアンケートを実施し、買収が終われば500株以上を保有する株主にグループ店舗で使える4万円の食事券を配ると表明したが、総会で大戸屋の役員を交代させる議案は否決された。
株主総会の工作に失敗したコロワイドは、7月10日から8月25日まで、1株当たり3081円でTOBを行うと発表。これは市場価格を4割上回る破格の値付けであったため、大戸屋にそこまで思い入れのない株主は応じるとみられる。下限45.0%、上限51.3%のレンジで買い付ける。そして、半数以上の株を持って、経営権を掌握しようというわけだ。
コロワイドは、コロナ禍で牛角のフランチャイズ(FC)オーナーが破綻するなど、傘下にあるチェーンのケアが必要という深刻な状況で、9月末までに196店を閉店するとしている。大戸屋にここまで構っている場合なのか、一度上げた拳は下ろせないのか。
企業防衛策に詳しいIBコンサルティングの鈴木賢一郎社長は、「既にコロワイドが大戸屋株を19%も保有しているので、一般論としてTOBが成立する可能性が高い」と指摘する。しかし「敵対的TOBで過半数を集めたケースはほとんどない。大戸屋の個人株主の感情に訴える作戦が非常にうまくいった場合に、防衛に成功する可能性もまだ残っている」と、大戸屋にも希望がかすかにあるとしている。実際、大戸屋株は3000円あたりまで高騰しており、市場価格の動きを注視して様子見の人も多いのではないだろうか。
実は、鈴木氏は野村證券に勤めていた際、ドン・キホーテによるオリジン東秀の敵対的TOBを担当している。その時は、単独での防衛は無理と考え、イオンにホワイトナイトを依頼した。
「大戸屋は創業家ともめ事が発生した時点で、同業に株を売却されないように創業家をハンドリングするべきだった。オリジン東秀がドン・キホーテに狙われた時も、事前に創業家から株を買われた。ホワイトナイトなしで勝てると思ったら甘すぎる」と手厳しい。
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