WeWork日本法人がコロナ禍でも拡大路線を続ける理由:「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵(1/2 ページ)
コワーキングスペース大手のWeWorkが、2018年2月の日本進出以来、拠点の拡大を続けている。WeWorkとソフトバンクの合弁会社WeWork Japanは、20年7月現在で東京、大阪、福岡など6都市で33拠点を展開。WeWork Japan最高戦略責任者の高橋正巳氏に、「新時代の働き方」に向けた戦略を聞いた。
「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵:
「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。
連載第1回:コロナ禍で「社員の出社が前提」のサービスが危機! 「おかん」と「キリン」の生き残り策とは
連載第2回:本記事
コワーキングスペース大手のWeWorkが、2018年2月の日本進出以来、拠点の拡大を続けている。WeWorkとソフトバンクの合弁会社WeWork Japanは、20年7月現在で東京、大阪、福岡など6都市で33拠点を展開。19年12月には東京・渋谷に3500席を用意した「WeWork 渋谷スクランブルスクエア」をオープンした。
ただ、グローバルではこの間、さまざまな問題が噴出した。事業内容などに批判が相次ぎ、上場は延期。親会社の米We Companyの創業者アダム・ニューマン氏は、個人事業との利益相反などが問題となり、19年9月に辞任した。翌月にはソフトバンクグループが株の取得や追加融資など最大95億ドル(約1兆円)の支援を表明している。
それでも日本法人のWeWork Japanは予定通りの成長を続けているという。グローバルで起きた問題の影響はそれほど大きくはないとみられる。新型コロナウイルスの影響が続く20年7月には、複数の拠点を利用できるWe Passportを日本独自のサービスとしてスタートした。
働き方改革や新型コロナの影響によって、都心のオフィスに対する企業の考え方は大きく転換しようとしている。富士通がオフィス面積を3年間で半減する計画を明らかにしたり、花王がグループ販社の営業拠点をサテライトオフィスとして活用したりと、伝統的な日本企業の中にも変化が生まれている。「この変化は転換期」と語るWeWork Japan最高戦略責任者の高橋正巳氏に、「新時代の働き方」に向けた戦略を聞いた。前・後編の2回にわたってお届けする。
高橋正巳(たかはし・まさみ)WeWork Japan合同会社最高戦略責任者。シカゴ大学卒業後、ソニーに入社。2007年にパリに転勤し、2011年にフランスのビジネススクールのINSEADでMBAを取得。その後、米国シリコンバレーでベンチャー企業の発掘、買収、投資、売却案件に従事。14年7月にUberに入社。日本法人の執行役員社長に就任し、日本における事業展開をけん引。東京でUberEATSを立ち上げる17年にWeWork Japan入社、ゼネラルマネージャーに就任後、19 年には副社長 営業・マーケティング統括に就任(※高は正式にははしごだか)
グローバルの問題にも日本の戦略は「見直しなし」
――日本法人の立場では答えにくい部分もあると思いますが、WeWork本体の上場延期やアダム・ニューマンCEOの辞任といった昨年の出来事をどのように見ていましたか。
グローバルの動きは同じブランドでもありますので、情報はウォッチしていました。ただ、私たちの事業は、昨年12月にオープンした渋谷スクランブルスクエアをはじめ、今年に入ってからも複数の拠点をオープンするなど順調に進めることができています。グローバルの動きによって戦略を見直したということはありません。
むしろ、今年に入ってからの新型コロナウィルスの影響で、オフィス環境が変わったことの影響の方が大きいですね。
――グローバルではこれまでの拡大路線からの転換も起きているのでしょうか。
これまで全世界で拡大路線をとってきて、投資が膨らんだ部分はあると思います。グローバルではこれまでのペースで加速度的に大きくしていくのではなく、スローダウンしていくことによって安定的に運営する方針にギアシフトしたと言えますね。
――日本ではスローダウンと言うよりは、引き続き成長を続けるということでしょうか。
日本では実際の運営も独立性を持っていますので、状況は違います。日本進出から約2年半で33拠点まで拡大し、メンバー(会員)の数は2万2000人以上に伸びています。
――日本のWeWorkは、利用料が海外よりも高いと言われることもあると思います。戦略もグローバルとは異なる点が多いのでしょうか。
海外とはターゲットが異なります。従業員1000人以上の大企業の利用者は、グローバルで約4割ですが、日本ではそれよりも高い割合です。
また、拠点によって料金も違います。東京都内では渋谷は高めですが、晴海は半分ほどの料金です。日本のニーズに合わせた拠点づくりをすることに最も重点を置いています。
緊急事態宣言後に利用者減
――新型コロナの影響によって、利用者数にどのような変化が起きていますか。
4月に緊急事態宣言が出たあたりから、利用者はかなり少なくなりました。宣言が解除された6月以降は少しずつ戻ってきています。
一方で、問い合わせの内容が変わってきました。4月の緊急事態宣言を受けて、事業を継続するために拠点を分散したいと言って、都内の複数の拠点を同時に契約いただいた企業がありました。
5月以降は、コスト削減のために、オフィスの在り方そのものを見直そうとする企業が増えていますね。東京と大阪に分散して入居いただいたインフラ系の企業もあります。
――契約を解除、または一時的に解除した会員はどれくらいいますか。
メンバーは減っていないですね。新型コロナ以前から立てていた今年の予測の範囲内で推移していますので、ポジティブに受け止めています。
――メンバーが減っていない理由は、どのように分析していますか。
新規の契約が入ったこともありますし、もともと12カ月や24カ月といったまとまった期間で契約している企業が少なくないからだと思います。多くの企業は、これまでは様子見というか、状況を見極めた上で今後のことを考えようとしているのではないでしょうか。
新型コロナの影響がいつまで続くのか、どのような働き方に変えていくのかを考えて、オフィスを今後どうするのかを判断していくのだと思います。
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