金価格上昇をどうみるか:KAMIYAMA Reports(3/3 ページ)
このところの金価格の上昇は、「2019年年央に始まった米国実質金利のマイナス領域入りがしばらく続きそうだ」、と投資家が認識したことによる、とみている。実質金利とは、金利から物価上昇率を引いたもので、このレポートでは「実質金利=米国10年国債利回り−物価(CPI、食品・エネルギー除く)上昇率」としている。
米ドルの基軸通貨としての信頼は揺るがないだろう
価値保全目的のために米ドル預金することと金に投資することを比較すれば、「金価格の上昇は米ドルの価値が下がっていることを意味する」と言えないことはない。しかし、そもそも米ドル預金で将来の購買力が減る恐れと、貿易などで使われる基軸通貨としての米ドルの信任が低下することとは異なる問題だ。
ユーロや円に対して米ドルが多少下がっているとしても、歴史的に見れば大幅な低下ではなく、一定の範囲内で推移(例えば米ドル・円であれば、105〜115円程度)している。これは、コロナ・ショックが世界規模で広がり、各国・地域の中央銀行が同じような政策を採ったことにある。この意味で、米ドルが他国通貨に比べて価値を下げているとは言いにくい。
実質金利低下が米ドルの信認を下げ基軸通貨の地位を揺るがすとの議論もあるが、コロナ・ショック下で金利を低位で安定させて資金を大量に供給し金融システムを守り、また米ドルの負債が多い新興国などにも十分資金を行き渡らせていることは、世界的危機に際して基軸通貨としての役割を果たしているといえる。また「有事の金」といわれるが、軍事的な有事は米ドルが好まれる(金の弱材料)し、コロナ・ショックでも当初金価格は低下しており、長期投資テーマに「有事の金」はそぐわない。
基軸通貨は自由な資本市場や安定した金融システムを背景にしており、米ドル以外に簡単にとって代わられるとは考えにくい。基軸通貨は資本市場や金融システムの安定などに依存する。貿易決済を金で行うようにもなるまい。ただし、通貨はリターンの源泉とは考えにくいので、基軸通貨の地位とは関わりなく投資では分散することが基本となる。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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