バフェットはなぜ今さら金鉱株に手を出したのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
「投資の神様」として名高い米バークシャー・ハサウェイCEOのウォーレン・バフェット氏が、カナダにあるグローバル鉱山会社バリックゴールド社へ投資した。バリックゴールド社は金価格の上昇を受けて株価を大きく伸ばしている。1年前の水準と比較しておよそ2倍、5年前の水準と比較すると5倍程度にまで株価が成長した。しかし、バフェット氏の本件における投資行動は、過去の彼の投資スタイルと矛盾するのではないかと懸念する声もある。
アマゾンを”割安”と看破したバフェット
実は、バフェット氏が今回のように過去の投資スタイルと一見矛盾する行動を見せたのは今回が初めてではない。19年5月上旬に行われたバークシャー・ハサウェイの株主総会では、米国のEC大手アマゾンへ投資した理由について、「割安投資の原則に従ったものである」と説明し、市場参加者も驚かせた。
当時のアマゾンはPER(株価収益率。株価が、1株あたりの利益の何倍かを示す)は83倍であり、米国の平均的なPERである20倍近辺と比べると、とてもではないが割安とはいえないと考えられていたからだ。
それでは、バフェット氏は高値つかみをしてしまったのだろうか。当時と現在の株価を比較してみよう。昨年のアマゾン株は5月3日に1962.46ドルであった。これに対して、今年8月25日の株価は3346.49ドルである。コロナ禍が追い風となり投資成績を押し上げていることは確かだが、あれほど「割高である」といわれたはずのアマゾンは、バフェット氏の買い入れから目立った大崩れもなく、わずか1年4カ月で投資額の1.7倍ものリターンを叩き出している。
ここから、割安・割高という概念が、現在の株価水準やPERなどから単純に導き出せるわけではないことが分かる。株価やPERはあくまで「現状」に過ぎず、将来に向けられた値ではない。これは同時に、現時点の平均PERよりもある株式のPERが低ければ「割安」とみるのが早計であることも示している。PERは将来の収益予想と併せて検討されるべきだ。
やや数字を誇張して考えてみよう。PERが100倍の企業について、翌年の利益が10倍になるとすると、翌年のPERは10倍程度になるはずだ。つまり、今のPERでみれば市場平均からして割高であるが、翌年も同じ株価であれば一気に割安になる。そうすると、割安・割高の判断を今のPERや株価水準だけで論じることはほとんど無意味であることが分かる。
このように考えると、バリュー投資には2通りあるといえるだろう。典型的なバリュー投資が、「株価が下落して安くなったときに購入する」であるとすれば、「企業価値の伸びに株価上昇が追いついていないときに購入する」という方針もまたバリュー投資的だ。割安投資とは、株価が上昇している局面においても取り得るというわけだ。
バフェット氏が、株価が急騰しているバリックゴールド社への投資を決めたのは、今回の事例が「企業価値の伸びに株価が追いついていない」パターンであると判断したとみるべきではないだろうか。
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