総合商社は「三菱」から「伊藤忠」時代に? 5大商社は大幅高:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
「投資の神様」という異名を持つ、ウォーレン・バフェット氏の「バークシャー・ハサウェイ」が、8月31日に三菱商事や伊藤忠商事といった、いわゆる「5大商社」の発行済株式総数の5%超を子会社で取得したという。5大商社の株価は、この発表が行われた31日以降、値上がりを続けた。なぜ、バフェット氏は日本の商社に目をつけたのだろうか。
バフェットが5大商社を買った真のワケ
ここまで検討すると、一見、バフェット氏が5大商社を購入する理由があまり見当たらない。商社の中でもこれほどに特色があるなかで、バフェット氏が特定の商社に集中投資するのではなく、5大商社に薄く広く投資する背景にはどのような背景があるのだろうか。
その背景は、2点ほど考えられる。1つは、同氏が資源や金属の需要回復を見込んでいる可能性があることだ。前回の記事でも言及した通り、バフェット氏は金鉱株のバリックゴールドに投資しているが、今年7月には米ドミニオンエナジーの天然ガス輸送事業を97億ドルで買収している。
つまり、バフェット氏はこの数カ月で資源に対して強気の姿勢を示していると考えられる。足元では資源ビジネスで打撃を受けている総合商社についても、市況が回復すれば業績回復が見込める。そうすると、バフェット氏は長期的にみて資源やエネルギー価格が回復することで、5大商社の企業価値も回復するとみているのかもしれない。
次に、この投資がバリュー投資的であることも大きな理由ではないだろうか。総資産に対する株価の倍率であるPBRを確認してみよう。5大商社のPBRは、伊藤忠商事を除いて0.69から0.88倍程度であり、日経平均のPBR1.10倍を下回る水準だ(伊藤忠商事は日経平均を上回る1.47倍)。 つまり、商社は一般論として概ね「割安」とみられる株価水準であり、バフェット氏が得意とするバリュー投資の考え方とも整合的なのである。
冒頭で触れた、各5大商社商社への投資における「9.9%まで持ち高を高める可能性」であるが、これは“株価動向にもよる”という条件付きである。伊藤忠商事が出遅れ気味の株価上昇となった背景には、5大商社のなかで資源ビジネスへの依存度が低く、株価も比較的高い水準であることで、バフェット氏の追加投資の可能性が他社と比べて低いとみなす市場参加者が伊藤忠商事への買いを手控えしたという要因もあるのかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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