シトロエン・ベルランゴ 商用車派生ミニバンの世界:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/8 ページ)
商用車と商用車ベースのクルマにはまた独特の良さがあって、筆者もそういう世界は聞きかじり程度に知っている。こんな世界にこの8月、ニューカマーとして日本市場にやってきたのがこのシトロエン・ベルランゴである。いろいろ覚悟ができる人にとって、ノア/ボクシーを避けつつ、家族をもてなすクルマという意味での存在価値はそれなりに高い。さらにいえば、運転することの楽しさも放棄しないで済む。
さて、ようやく走り出す。1.5のディーゼルターボは下からしっかりトルクがあるし、8速ATもそれをよくサポートしてくれる。東京から房総半島を一回りする311.3キロの旅程の中で、2回ほど「ド」が付くほど下手なシフトダウンをお見舞いしてくれた。急に減速した時に、シフトダウンを連動させて、かつクラッチをドンつなぎ。その衝撃で床板が鳴るような変速だった。
ただしまあそれは約300キロで2回。実は空いた道ではさほど問題なく思えたトランスミッションだが、ストップ&ゴーの多い市街地では、結構シフトダウンのショックが気になる。特に時速30キロ以下の低速域において、減速Gを一定に保つことが全く不可能な荒いシフトダウンが頻繁にある。
これは多段変速機を再加速に備えさせるためのシフトダウンなのだが、さすがにもう少し洗練させてもらいたい。ただし、最近の変速機はたいてい学習機能を備えているので、渋滞した一般道をある程度走るとよくなる可能性はある。試乗車は走行200キロの新車だったので、距離の進んだ車両で試してみたいところだ。
それ以外ではほぼ快適。時速100キロ巡航時のエンジン回転数は1800回転ほどで、多段変速機の面目躍如である。ちなみに燃費はトータルで14.9キロ。行程のほとんどが交通量の少ない、地方の一般道と高速道路。平日の一般道は、ほとんどストップ&ゴーがなく、先行車に追従してトロトロ走るので速度も低い。1630キロという車両重量からすれば、まあ妥当な水準だと思う。
ただし、車格も車重も全く違うが、ヤリス・ハイブリッドが、実燃費でしれっと30キロも40キロも走るようになってから、スポーツカーでもないリッター15キロ前後のクルマをどう評価するかはすごく難しい。実燃費で15キロといえば、ちょっと前までならむしろ燃費は良い側だったのだが、2020年の今、基準はいったいどこに置くべきなのだろうか。ちなみにほぼ同じコースを走ったヤリス・ハイブリッドの燃費は33.2キロだった。いろいろな違いを考慮したとしても、倍にして足りないのはやはり差がありすぎるように思えてしまう。
パワートレインの自然さを端的に表すのは、ちょっとだけ速度を上げたい時に下品にシフトダウンを行わないところだろう。ギヤをキープしたままで、エンジントルクでグッとクルマを押し出してくれる感じはとても良い。
ハンドリングに関しても同様で、一般道でのフィールがとても自然だ。シャープだとも感じないがダルだとも感じない。普通のありがたみがぎっしり詰まっている。こういうナチュラルさはベルランゴの大きな魅力だ。
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