シトロエン・ベルランゴ 商用車派生ミニバンの世界:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)
商用車と商用車ベースのクルマにはまた独特の良さがあって、筆者もそういう世界は聞きかじり程度に知っている。こんな世界にこの8月、ニューカマーとして日本市場にやってきたのがこのシトロエン・ベルランゴである。いろいろ覚悟ができる人にとって、ノア/ボクシーを避けつつ、家族をもてなすクルマという意味での存在価値はそれなりに高い。さらにいえば、運転することの楽しさも放棄しないで済む。
一方高速道路では、少し進路を乱す癖がある。ちょろちょろ向きを変えるというよりは、外乱に対して当て舵(かじ)を入れた時、その修正舵(しゅうせいだ)の周波数がクルマの挙動とちょっとズレる感じである。ピシッとまっすぐ走らせるのは意外に難しい。それは横風があると尚更である。ボディ形状的に、横風には弱そうなのはある程度止むを得ない。ただし、ベルランゴの場合、この蛇行が勘に触らないところが少し面白い。多分周波数がゆっくりなのと、振れが共振して拡大しそうな感じがしないところに起因しているように思う。
この蛇行は、やはりこういう大型スライドドアを両サイドに備え、大型のテールゲートを持つ車型そのものが持つボディ剛性の不足が呼んでいる現象だと思う。ただし、そういう開口部なしで、こうしたレジャービークルが成立するのかといえば、それはまた不可能な話で、ボディ剛性とユーティリティの折り合いの付け所をどうするかという話だ。
なので高速を頻繁に利用し、なおかつ直進安定性を重視する人はこういうシチュエーションを一度走って確認してみた方がいい。筆者個人としては直るのならば直してほしいが、見逃すのが難しいほどの欠点とは思わなかった。
全体的な走りの印象は、従順な家畜みたいで、ちょっと可愛気があり、欠点も含めて趣味的に愛でるにはいい塩梅だ。それが運転体験全体の良さにちゃんとつながっている。純粋に工学的に見ればちょいちょいボロがあるが、情状酌量の余地があるといえば伝わるだろうか?
追記すべき欠点の筆頭は、変速機のセレクターだ。例えば道を間違えて、路地にリヤから突っ込んでスイッチバックする時、交通の流れをにらみながら素早く操作をしたいときに、このダイヤルセレクターは向かない。何より一度交通を確認する視線を切ってセレクターを目視しながら操作しなければならない。フランス人はこういうところに何か新しいシステムを入れたがるが、実用性が大事な部分ではちょっと疑問である。
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