観光列車は“ミッドレンジ価格帯”の時代に? 新登場「WEST EXPRESS 銀河」「36ぷらす3」の戦略:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
JR西日本は夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始、JR九州も昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。それぞれに旅客をひきつける特長がある。価格帯はミッドレンジ。ローエンドの価格の観光列車が多い中、中価格帯の試金石となりそうだ。
2020年9月11日、JR西日本は新たな夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始した。10月16日にはJR九州が昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。
「WEST EXPRESS 銀河」は5月運行開始予定が9月に延期され、「36ぷらす3」は今秋からと予告した通りの運行開始となった。どちらも新型コロナウイルス禍でのデビューとなったけれど、予約は好調の様子だ。
その理由は「お手頃価格のクルーズトレイン」という企画趣旨にある。観光列車群の中では高めだけど、高級クルーズトレインより格段に安い。どちらも新しい魅力を提案しているから格上、格下感はなく、新しい列車として受け止められたようだ。
この2つの列車のコンセプトと価格帯が、今後の観光列車ビジネスに変化を与えそうだ。
新時代の夜行列車「WEST EXPRESS 銀河」
JR西日本が運行する「WEST EXPRESS 銀河」は、京阪神〜山陰間に設定された夜行特急列車だ。世界的観光地の京都と、女性の人気が高い出雲大社を結ぶ。観光目的の列車としては最強の組み合わせだ。東京〜出雲市間の夜行特急「サンライズ出雲」も人気が高く、近畿圏発の夜行列車も需要は多かったはず。しかし夜行列車廃止施策の影響で1994年に寝台急行「だいせん」が廃止されて以来、ベッド付きの列車は26年間も空白となっていた。
「WEST EXPRESS 銀河」を「銀河」と略したいけれど、岩手県で「SL銀河」が走っている。ブルートレインブーム時代には東京〜大阪間の寝台急行「銀河」もあった。私の世代にとってはこちらが「銀河」だという意識も強い。「WEST EXPRESS 銀河」の列車名も、かつての夜行急行のイメージを継承したと思われる。
「WEST EXPRESS 銀河」の下り列車は京都駅を午後9時15分に発車し、新大阪・大阪・三ノ宮・神戸・西明石・姫路までが夜の区間、翌朝は生山・米子・安来・松江・玉造温泉・宍道に停車して、出雲市到着は午前9時31分。夜遅く、朝のんびりという設定だ。一方、上り列車の出発は早い。出雲市を午後4時ちょうどに出発し、宍道・玉造温泉・松江・安来・米子・根雨・備中高梁までが夜の区間、翌朝は神戸・三ノ宮に停車して大阪到着が午前6時12分だ。これは平日の運行日も設定されているためだろう。通勤混雑時間帯直前に到着し、京都まで行かない。乗客にとって大阪駅到着後に出勤できるという利点がある。
運行日は週に2往復が設定された。9〜11月は上記の山陰方面で、下りが月曜と金曜、上りは水曜と土曜となっている。12月以降は山陽本線の大阪〜下関間を運行し、停車駅と時刻は未発表。19年11月に発表された運行概要では、春夏に山陰方面の夜行、秋冬に山陽方面の昼行となっていた。私は山陽方面も夜行の方がいいと思うけれども、線路保守時間の確保や貨物列車との兼ね合いかもしれない。今後に期待したい。
関連記事
- リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か
富士山静岡空港を利用した。コンパクトで機能的、FDAという拠点会社があることも強みだ。しかし、アクセス鉄道がない。空港駅はリニア工事問題で引き合いに出された不運もあった。新幹線ありきの計画を見直し、静岡県民のために最も良いルートを検討してもいいのでは。 - ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。 - リモートワーク普及で迫りくる「通勤定期券」が終わる日
大手企業などがテレワークの本格導入を進める中で、通勤定期代の支給をやめる動きも目立つ。鉄道会社にとっては、通勤定期の割引率引き下げや廃止すら視野に入ってくる。通勤に伴う鉄道需要縮小は以前から予想されていた。通勤しない時代への準備はもう始まっている。 - 東急がJR北海道に“異例”進出! 全国127の観光列車を「分布図」にすると……
JR北海道が東急電鉄の豪華観光列車を運行すると報じられた。“異例”の取り組みがどうなるか注目だ。「観光列車大国」の日本には127もの観光列車があるが、まだ空白地帯もある。そこに商機があるかもしれない。観光列車の「分布図」を作ってみると…… - 新型特急「ひのとり」がくる! 2020年、近鉄から目が離せない
2020年3月、近畿日本鉄道の新型特急「ひのとり」がデビューする。名古屋〜大阪間で東海道新幹線と競争だ。さらに、フリーゲージトレインの開発や、複数集電列車による大阪・夢洲と近鉄沿線の直通構想もある。近鉄が日本の鉄道の「常識」を変えるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.