「トリクルダウン」に期待してはいけない:火が灯かないまま(2/4 ページ)
前政権のアベノミクスが今一つうまく回らなかった大きな要因は、「トリクルダウン」に期待してか成長戦略を粘り強く追求しようとしなかったことにある。新政権は前車の轍を踏んではいけない。
それでも政権への期待を持たせるためか、それとも本当に政権担当者たちが信じていたのかは定かではないが、政権周辺から放たれた挙句、当時の世の中でもてはやされたキーワードがある。それが「トリクルダウン」だ(大いにはやし立てたのは当時政府ブレーンとされたTH蔵氏とHK一氏だったと記憶している)。
すなわち、富裕層が潤うことで彼らがさまざまなものに再投資したり散財したりしてくれることで世の中の金回りがよくなるとされた。また、その亜種の説では、大企業が儲かることで取引企業にも恩恵が伝わり、企業収益全般がよくなることで従業員の賃金が上がり、世の中の景気がよくなる、ともされた。
この2種の「トリクルダウン」仮説はさまざまな(伝統的なものとオンラインの両方の)メディアを通じて安倍政権の政策の正統性を誇示するものとして流布していた記憶がある。つまり、成長戦略がすぐには効果を発揮しなくとも、「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」が景気回復をもたらすので、いずれ多くの国民が経済的メリットを感じるようになる。だから安心して経済活動に励んでしっかり消費もしてね、というメッセージだったのだろう。
しかし「トリクルダウン」という考え方は今や完全否定されたも同然だ。
まず大企業の話からしよう。収益がよくなっても、外人投資家の比率が増えた日本の大企業の多くは内部留保に励むのと株主還元に回すのを優先し、毎年の官製春闘で政府に圧迫されないと従業員への還元には随分と渋い体質に変質してしまっている(記事を参照されたい)。残念ながら西欧資本主義の悪い部分だけを学んでしまった経営者が多いようだ。景気が回復したときでもこうなのに、今後景気が悪化したらどうなるのか大いに懸念される。
そして「富裕層が(株高や減税で)潤うと、水がしたたり落ちるように順々に世の中を潤す」という本来の「トリクルダウン」説はどうかというと、元々経済理論として間違っているとしか言いようがない(そもそも理論としての体系なぞ最初からないのではないか)。
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