「トリクルダウン」に期待してはいけない:火が灯かないまま(3/4 ページ)
前政権のアベノミクスが今一つうまく回らなかった大きな要因は、「トリクルダウン」に期待してか成長戦略を粘り強く追求しようとしなかったことにある。新政権は前車の轍を踏んではいけない。
「トリクルダウン」説のポイントは、「いろんな生活層に満遍なくお金を配るよりも富裕層を中心に配ったほうが景気対策としては効率的・効果的だ」ということのはずだ。つまり他の生活層よりも富裕層のほうが高い乗数効果を持つ、と主張するものだ。しかしそんな実証研究はどこにもないし、実感としてもあり得ない。
乗数効果というのは端的に言えば、「政府が特定の人たちをターゲットとした経済政策で一定のおカネをばらまいたとしたら、その結果どれほど世の中のカネ回りに貢献することになるか」という経済政策の有効性を表す数値だ。直接的な政策対象の人たちが受け取るおカネのうち使う割合が大きければ大きいほど、そして使う速度が早ければ早いほど乗数効果は大きい。
実際のところ富裕層の乗数効果は世界的にも高くないが、特に日本では低いとされる。世界のどこでも共通して、お金持ちは一人当たりの獲得する額が多い割に、そのカネを使いたくなる対象や散財の場は限られており、投資に回すのもタイミングを見るため使う速度が遅くなる。しかも日本人富裕層は周りの目を気にして、世界標準の富裕層のような豪快な散財(豪奢な別荘、派手なパーティなど)をする人たちは限られているという調査もある。
むしろ乗数効果が間違いなく高いのは低所得者層だ。なぜなら彼らは「その日暮らし」という言葉にあるように、獲得したお金を右から左に使ってしまわないと生活できないからだ。つまり手元に入ってから使うまでの速度が無茶苦茶早く、使う割合も圧倒的に高い。
「トリクルダウン仮説」の罪なところは理屈的に間違っていることだけじゃない。それを隠れ蓑に、本来粘り強く追求すべきだった規制緩和やイノベーション支援策は中途半端に終わり(省庁によってはむしろ逆方向に転換し)、政権中枢において「成長戦略」路線の看板を誰も真剣に掲げなくなったことだ。
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