RAV4をもっと売れ!:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
トヨタ自動車はミドルサイズSUVのヒットモデル、RAV4に特別仕様車を追加発売した。この「RAV4 Adventure “OFFROAD package”」 は一見すると、ただのドレスアップモデルに過ぎない。しかし、それはトヨタの次の一手への礎になるかもしれない。
生産改革
マツダのように、単一車種ではラインをフル稼働させられない規模のメーカーにとっては、多品種を1つのラインで順不同に生産する混流生産は、生産性向上の面でも欠かせない。A車をまとめて作り、ラインを再セットアップしてB車の生産用に切り替えるようなやり方では、ラインが止まっている時間が増え過ぎて生産性が落ちてしまうのだ。
ところがトヨタでは、単一車種の生産台数がはるかに多い。1ラインで多車種を生産する必要はこれまであまり無かった。しかし、RAV4を新車効果に頼らずに売り続けたいとするならば、顧客の声に応えられる仕様を次々と生み出していかなくてはならない。
一方で、仕様が増えると生産現場に大きな負担が掛かる。ただ無闇に仕様の数を積み増していけば、結局生産コストを押し上げることになる。だから手を替え品を替えて新たな仕様を次々と生産しなくてはならないが、クルマという製品は高度にバランスを取った生産ラインで生み出されるものだ。
例えば生産ラインには何十もの工程があるが、全ての工程の作業時間は厳密にそろえなくてはならない。速い工程と遅い工程があれば、ラインはその前後で詰まってしまう。だからタクトタイム2分とか3分とかいう同一の作業時間で全ての工程は作業を終える。まさに巨大な精密機械である。
そこに特別仕様のために新たな工程を挟むとすれば、その調整の大変さは想像に難くない。そう考えると、そうそう特別仕様をポンポンと作れといわれても生産現場は受け入れられない。
そういう生産現場の諸問題を解決してでも協力をしてもらうためには、何よりも実績が必要なのだ。Adventure “OFFROAD package” はそのための試金石であり、これが成功すれば、トヨタはまた大きく変わるかもしれない。多品種少量のバリエーションを作り分ける技術。それは本来TNGAの中に組み込まれている要素でもあるのだ。TNGAの新たな真価が問われるのかもしれない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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