従業員に“報いる”経営で31期連続増収増益 埼玉の「ヤオコー」がコロナ禍でも成長する理由:独自の経営哲学(5/5 ページ)
郊外の食品スーパーはコロナ禍でも順調。その中でも埼玉が地盤のヤオコーは31期連続増収増益で、コロナ禍でも絶好調。強さの秘密は従業員に“報いる”経営スタイルにあった。
デジタルが進むほどアナログが重要になる
ヤオコーが創業したのは1890年です。2020年には創業130年を迎えました。現在は、6代目社長の川野澄人氏が経営を担っています。川野社長は川野幸夫会長の次男です。会長と現社長の間に5代目社長をしていたのが会長の弟である川野清巳氏です。
川野前社長が13年3月に退任する際のニュースに私は大変驚きました。なぜなら、川野氏自身の保有する株式の一部を当時の従業員1800人に贈与すると発表したからです。当時の発行済み株式の1%強の21万5000株、時価換算で約7.9億円分をパートナーまで含めて贈与したのです。「会社発展に尽力した社員への感謝の気持ち」と説明していましたが、そんなことができるヤオコーはすごい決断のできる会社だと実感しました。
しかし、それは同社を小規模な八百屋から一流の流通小売業に育て上げた川野会長、川野前社長の母親である故・川野トモ氏がパート社員も含めて従業員を大事にし、家族のように接してきたことを引き継いでいるからできることでしょう。これが「この店で働く幸せを感じられる存在になりたい」というヤオコーの個店主義であり、人を大切にする経営の真髄(しんずい)です。
現在、店舗で働くことに不安を感じている従業員は多いと思います。だからこそヤオコーのような従業員を大切にする経営が、これから重要になるのです。今後、デジタルが進めば進むほど、従業員の心と体をケアするアナログなマネジメントが必要になります。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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