返礼品は「高級レストラン食事券」や「温泉利用券」 ふるさと納税に新たなブーム、企業のメリットとは:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)
ふるさと納税の返礼品に“体験型”が増えている。「洋服仕立券」「レストラン食事券」「温泉利用券」などが登場。提供する企業や農家が享受するメリットとは。
ふるさと納税のおかげで給料満額
紳士服「銀座英國屋」を展開する英國屋では、埼玉県北本市の返礼品として、オーダースーツ仕立て補助券を提供している。寄付額5000円から利用可能で、150万円という高額な寄付額に対応する補助券もある。なお、補助券は、返礼品の決まりで寄付額の3割相当となっている。購入時に足りない分の差額を、顧客が支払う。東京、近畿、名古屋にある10店で使える。
同社のフルオーダースーツは19万円(税別、以下同)からとなっているが、補助券は5年間有効。5年分をためて使う手もある。贈答も可能だ。補助券は食品と違って嵩張らず、腐らないのもポイントだ。
フルオーダーは高額であり、50万円以上するスーツはザラにある。英國屋のスーツはエグゼクティブの仕事着として愛用されていることで定評がある。しかし、実はフルオーダーの価格はリーズナブル。それを、東京近郊の北本にある縫製工場、エイワ縫製の高い技術が支えている。
また、10月から新しく5サイズに絞った、裏地を付けない軽量仕立てのパターンオーダーを発売。こちらは13万円からと、さらにリーズナブルになっている。
英國屋が初めて返礼品に参入したのは、17年12月。同年はわずか半月ほどで約1700万円が集まる好調なスタート。18年は約1億2800万円、19年は約2億5300万円と順調に伸びている。19年の件数は1640件。北本市での占有率は件数で81.6%、金額で99.4%となっており、大いに貢献している。
「若手の職人を育て、テーラー文化を後世に残したいという想いがきっかけでしたが、ここまで多くのご支援を頂けるとは想像していませんでした」と小林社長。ところが20年6月以降は、19年の2.5倍となるペースで、補助券に対する寄付が集まっている。英國屋も、4、5月の緊急事態宣言期間中は、休業を余儀なくされた。それでも、社員を解雇せずに給料を満額支払えたのは、ふるさと納税のおかげだと小林社長はしみじみ語る。
国内の縫製工場は人件費が安い海外にどんどん移転して、空洞化している。その状況で、雇用を維持していくのは並大抵ではなく、コロナ禍で廃業してしまった工場もある。
フルオーダースーツというと、1人で全部縫うイメージがある。しかし、英國屋の場合は全部で約200工程あるのを分解して、1人4〜5工程を担当する。この分業方式なら、職人の習熟度が、1人で縫うよりなんと100倍早くなるという。
縫製工場では高齢化が進み、最年少で60歳というケースも少なくない。しかし、エイワ縫製では直近10年で平均年齢が10歳若返り、42歳ほどになった。約70人の社員のうち20代、30代が半分以上となった。そのような雇用創出に、返礼品による収入が活用されている。
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