リニアリティって何だ?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
おそらく2020年は日本の自動車のビンテージイヤーになると思う。20年のクルマたちは、もっと総合的な能力で世界トップといえる実力を持っている。その総合力とは何かといわれると、それはおそらくリニアリティの圧倒的な向上だ。
解像度と面積
と書いただけでは「なるほど」となる人ばかりではないと思うので、今回はこのリニアリティについてじっくり書いてみたい。
この連載をご愛読いただいている方なら、「池田はリニアリティにうるさい」と思っているかもしれない。そしてそれは多分イエスだ。以下筆者の見方であることを断って書き進めるが、クルマにとって大事なのは、究極的には「ドライバーが思った通りに動かせること」だ。パワーをありがたがるのも、超高速域まで思った通りに加速したいという欲望のためだと思う。
逆にいえば、使用頻度の低い高速域を優先するなんてことは愚かなことだと筆者は思っている。時速200キロオーバー専用のクルマなんて特殊過ぎる。ソルトレイクの速度記録競技車みたいなものだ。
ということで、変なことを言い出す。「リニアリティはちょっとデジタル画像に似ている」ということだ。解像度の低い画像データを無理やり拡大するとギザギザする。表示面積を拡大するために密度を無視して拡大するとそういうことになる。
最高速度だけを簡単に上げようとすれば、エンジンにとっていろいろ大切な要素を犠牲にして馬力に転換し、ドライバビリティを落とすことになる。それは密度を無視して画像の面積を拡大するのと似ている。大事なのはキレイに見える密度であること。ではピクセル数を増やして、高密度大面積にすればいいかというと、ギザギザよりはマシだがこっちもリスクがある。
そういう重たいデータはいろんな場面でハンドリングが悪い。コピーするのもアップロードするのも時間がかかる。まあ最近の回線速度だと静止画程度でそこまでのことにはあまりならないけれども、原則論としては不必要にでかいデータのまま扱うのは効率が悪い。
ここでは、ギザギザをクルマの微細な操作性、パワーを画素数になぞらえている。大きな出力を前提にすれば、各部の強度が必要で、それは重量増加を呼ぶし、それだけのパワーを路面に伝達するためにはタイヤ、ホイールもサイズアップする。ブレーキの容量も上げなくてはならない。それらは当然効率を落とす。
だから筆者はパワーなんてほどほどで良いと思っているし、それよりもそのパワーで実現できるクルマの動きがギザギザしていないこと、つまり解像度が高いことを第一に求めるのだ。
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